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ゴグマゴグ タイプ 魔人 タイプ アルビオン 種族 魔種 ジョブ アタッカー HP 450 ATK 70 DEF 40 コスト 40 アビリティ 召喚 なし 覚醒 なし 超覚醒 リベンジアップD 奴で最後だ。コーンウォールに立て篭った最後の巨人。 奴は誇り高い。きっと一騎打ちに応じるだろう。引く訳には行かない。 この島は、まつろわぬ民となった我々が、やっと見つけた安住の地なのだ。 我が将は、奴を討ち取った暁には、「最後まで神の国に抵抗した者」と呼ぼうと笑った。 愚かしい話だ。神など関係ない。これは、我々と奴らの純粋な生存闘争だ。 神とは何だ。そもそも我々こそが神に見捨てられた――いや、よそう。 今は、あの黒く、巨大で、偉大な戦士との戦いを楽しもう。 奴はあそこで、静かに私を待っている。 身長 12[meter] 体重 12.7[t] 最高速度 110[km/h] 生息域 アルビオーン島 性格 リーダー気質 宿敵 コリネウス イラストレーター 伊藤 暢達
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前ページ次ページアクマがこんにちわ 「ロングビルさん、起きてください」 「う…」 「ロングビルさん」 「あ………うわあああっ!?」 目を覚ましたロングビルは、自分の顔を覗き込んでいる人修羅に気が付き、心臓を鷲づかみにされたような錯覚に陥った。 わたわたと両手両足を振り、逃げようと身体を動かしたところで、自分の身体が怪我一つしていない事に気が付いた。 白い仮面を被った男に脅迫され、ゴーレムと傭兵を使って『女神の杵』亭を襲撃したロングビルは、人修羅の一撃で返り討ちにあった。 その時自分は石の下敷きになったはずだが、なんの痛みも残っていない。 「怪我はもう無いはずですけど…大丈夫ですか?」 「えあ、ああ、ああ、だいじょう、ぶ、だけど…」 多少混乱しているせいかロングビルのろれつが回らない。 手を引いて身体を起こさせ、近な木箱に座らせる。ロングビルはようやく落ち着きを取り戻したのか、自分が置かれている状況が気になりはじめた。 木で造られた倉庫というには何かがおかしい、違和感の正体は揺れだった、ここが船の中だと気が付くと、ロングビルは観念したようにため息をついた。 「あたしは、何でこんな所に?」 「…言いにくいんですけど、ゴーレムの巻き添えになったんです。覚えてますか?」 「ええと…そう、そうだ、あたしは、自分で作ったゴーレムの石に頭をぶつけて……」 「その時、仮面を被った男が気絶した貴方に杖を向けていた?」 「仮面、かめ…ああ、あいつが、杖を、私に?」 人修羅はここで一つの嘘をついた。 あの時、仮面の男はロングビルを放置して逃げた、最初から捨て駒扱いをされていたとしか思えないが、あえて『口封じに殺されそうだった』と臭わせる事でロングビルの出方をうかがったのだ。 「怪我の治癒はしたが、ラ・ロシェールに放置しておくわけにもいかないので、一緒に来て貰った。今アルビオン行きの船の中ですよ」 ロングビルは、ああ、と顔を手で覆った。 「アルビオンか…」 「ロングビルさん、教えてくれ、一体何があった?」 「……あたしは、あんたたちの泊まっている宿を襲えと、頼まれたのさ」 人修羅はロングビルの口調が変わっていることに気が付いた、だが、もしかするとこちらが本来なのかもしれない。余計な事は言わないことにして、ロングビルに続きを促した。 「ラ・ロシェールであんた達を見送ったら、すぐに魔法学院に帰る予定だったんだ。でも、仮面を付けた男が現れて、あたしをアルビオンの貴族派…確か、『レコン・キスタ』とやらに入るよう言ってきたんだ」 「レコン・キスタ…」 「あい、あいつら、エルフをうちたお、打ち倒して聖地を取り戻すんだとさ…馬鹿馬鹿しい」 ロングビルは、吐き捨てるようにそう言った。 「それで?」人修羅は続きを促した。 「仮面の男は、あたしの…ロングビルって名乗る前の…マチルダ・オブ・サウスゴータって知ってた、あたしが元アルビオン貴族も…ああ、し、仕送りに出したはずの…金貨の袋をあたしに見せつけたんだ」 ふと、ロングビルは顔を上げて人修羅を見た。自分を哀れんでいるのか、笑っているのか、それとも胡散臭い話だと訝しんでいるのか気になったからだ。 人修羅は疑っているとは言い切れないまでも、真剣な表情でロングビルの話を聞いていた。 「おねがいだよ…たすけてくれよ、あたしが死ぬのはいいよ、でもテファは、ティファニアは…」 そう呟いた所で、ロングビルの瞳がぶれる、幻覚を見ているのか、身体を震わせて視線を移しては怖がるような仕草を見せた。 「ごめん」 人修羅はそう言うと、ロングビルの頭に手を乗せた。 ロングビルが目覚める前、人修羅は可能な限り手加減した『テンタラフー』を使っていた、いかなる理由が有ろうとロングビルはルイズ達を殺せる魔法を使ったのだから、この際人権だの何だのと言ってられない。 軽い混乱状態に陥ったロングビルは、仮面の男に脅迫されてやむなく『女神の杵』亭を襲ったと喋った。 だが、これ以上続けていると強烈なバッドトリップに陥る危険があるので、人修羅は両手でロングビルの頭を覆い、体内の『イヨマンテ』のマガタマを活性化させた。 精神への影響(混乱、睡眠、魅了)を治癒する『パトラ』の魔法が使えれば簡単なのだが、人修羅では取得できなかったため、マガタマの力を借りることにしたのだ。 「あ……」 恐怖に染まっていたロングビルの瞳が、眠たそうな目つきに変わり、しばらくすると完全に眠ってしまった。 「…………」 人修羅はロングビルを寝かせると、部屋を出て行った。 ◆◆◆◆◆◆ 船底の船室から、もう一つの船室に繋がる扉を開けると、そこには聞き耳を立てていたルイズの姿があった。 あらかじめ『扉の外で話を聞いていてくれ』とルイズに頼んでいたのだが、ルイズは、何とも言えない複雑な表情で人修羅を見上げていた。 「聞いてたとおりだ。ルイズさん、彼女の名前に心当たりはある?」 そう問いかけ、ルイズの返答を待つと、少し悩んだ様子で答えが返ってきた。 「アルビオンにサウスゴータっていう地名があったのは覚えてるわ。たぶん、そこの出身よ」 「そうか…」 人修羅は腕を組み、ふぅとため息をつく。 このままロングビルをアルビオンに連れて行けたとしても、自分たちの目的地はあくまでも王宮、ニューカッスル城だ。 マチルダ・オブ・サウスゴータがどんな理由で名を変えていたのか解らないが、あまり良い理由では無いだろう、もしアルビオンを追放され、やむなく名を変えたのなら、ニューカッスルまで連れて行く事はできない。 それどころか入港の時点でストップがかけられ、投獄の危険もある。 悩んでいる人修羅に、ルイズが「ちょっと」と声をかける。 「どうした?」 「ワルドにも伝えたほうがいいかしら、なにかいい手を考えてくれるかも」 「いや…それは止めた方が良いんじゃないか。彼は俺達と違って王宮直属の軍人だろ? ロングビルさんの出自まで伝えるのはまずい。脅迫され、やむなくとはいえ…ラ・ロシェールで大暴れした事がバレたら、厄介な事になる」 「うーん、確かにそうかもしれないわね…」 「彼女は脅迫こそされたものの、それ以上のことは言われていない。おそらく『仮面を被った男』はもう一度接触してくる。そうなった今度は『アナライズ』で手がかりを掴んでみるよ」 ルイズは、沈痛な面持ちで船室の扉を…いや、扉の向こうにいるはずのロングビルに意識を向けた。 「ティファニアって、家族かしら」 「…かもしれないな」 (この旅が終わったら、学校を休んで、またカトレア姉様に会いに行こう) ルイズは自然と、そんな決意を固めていた。 ◆◆◆◆◆◆ 人修羅とルイズが、船室から甲板へ出ようとしたところで、外から船員達の騒ぐ声が聞こえてきた。 「右舷上方………り……船が………す!」 「………………………………」 「…船………旗を掲げ………」 「…………る…くうぞく…………」 「間違い………乱に乗じ…………て、活動が…………ると…………」 「逃げろ!」 人修羅はハッとしてルイズに向き直る。 「空族らしい、ルイズさん、ここにいてくれ。俺は外に出る」 「でも」 言い返そうとしたルイズの肩に手を置き、真剣な表情で瞳を見つめた。 「…頼む」 ルイズは神妙に頷き、「わかったわ」とだけ呟いた。 人修羅が甲板に出ると、船長が船を空賊から遠ざけようと指示を飛ばしていた。 しかし、すでに空族らしき黒船は併走しており、脅し代わりにと船側の大砲を撃ち出した。 弾丸は、ぼごん!と音を立てて人修羅達の乗った船の針路を横切り、雲の彼方へと消えていった。 黒船のマストに四色の旗流信号が登ると、船員がそれを停戦命令だと気付き、船長に告げていく。 「停船命令です!」 この船にも武装はあるが、甲板に置かれた移動式の大砲が三門のみだ。 一方黒船は片舷側に二十数門も大砲を並べている、それに比べれば役に立たない飾りのようなものだろう。 船長は助けを求めるように、隣に立ったワルドを見つめていた。 「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」 ワルドが落ち着き払った声で言うと、船長は頭を抱え「これで破産だ…破産だ…」と呟いた。 すぐにハァとため息をついて顔を上げ、力ない声で「裏帆を打て。停船だ」と命令した。 人修羅は無言で船室に入ると、不安そうな表情のルイズへと近づいた。 「ルイズさん、奥の船室に隠れて、少しの間ガマンしていてくれないか、ワルドさんは魔法を使いすぎている、俺は直接空族の頭領を狙う」 「頭領を?」 「そうだ…俺の技で空賊の船を吹き飛ばすには、相手の船が大きすぎる、余波でこの船までダメージを負うかもしれない」 「で、でも一緒に」 「ルイズ!」 びくん!とルイズの身体が震える。 「…必ず助ける、だから、協力してくれ。もし空賊に見つかったら自分が貴族だとばらすんだ、格の高い貴族なら人質としての価値が高い、相手もルイズさんを丁重に扱うはずだ、そうして時間を稼いでくれ」 どことなく戦士を思わせる、真剣な表情で見つめられ、ルイズは背筋に寒いものを感じた。 だが、それは貴族としてのプライドを刺激されるものでもあった、自分に与えられた役目を全うしようという気が、身体の奥からわき出てくるようだった。 「…わかったわ、人修羅も、無茶しないで」 「大丈夫だ」 人修羅は微笑むと、ルイズの頭に手をかざした。 「ラクカジャ」 じわりと身体に何かが染みこんでくる、一度も感じた事のない不思議な感覚だが、嫌ではなかった。 「これでしばらくの間、ナイフで斬りつけられても傷一つ付かないはずだ。奥に隠れててくれ」 そう言うと、人修羅は手近な縄を掴んで船室を出て行く、それを見送ったルイズもまた、ロングビルの居る船室の奥へと入っていった。 ◆◆◆◆◆◆ 「空賊だ! 抵抗するな!」 黒船から、メガホンを持った男が大声で怒鳴る、空賊の船には弓や銃を構えた男達が並び、こちらに狙いを定めている。 人修羅はデルフリンガーに縄を結びつけて背負うと、靴を脱いだ。 (俺を見ている視線は…たぶん無いな…) 殺気と比べ、視線を『心眼』で感じるのは難しいが不可能ではない、空賊達が自分に気づく前に、人修羅は船の外側を伝って船底へと下りていった。 空賊の船からかぎ爪つきのロープが放たれ、二つの船が近づけられる。 ある程度まで近づくと、空賊の船から斧や曲刀などの武器を持った屈強な男たちが、船の間に張られたロープを伝って数十人がやってきた。 それを見て、前甲板に繋ぎ止められていたワルドのグリフォンが、ギャァギャァと喚く、するとその瞬間、グリフォンの頭が青白い雲で覆われ、そのまま身体を横に倒し寝息を立て始めた。 「眠りの雲……、確実にメイジがいるようだな」 ワルドはそう呟いて、船室の方を見た、そこには人修羅の姿がないと知らないまま… あっけなく空賊に捕らえられたワルドたちは、船底の船室に閉じ込められた。 マリー・ガラント号の乗組員たちは、空賊の手伝いをさせられ、ルイズはすぐに発見され杖を奪われた。 杖のないメイジなど恐れるに足らず、既に杖を失っていたロングビルはそのままだが、三人は手足のでない状況にあるのは間違いなかった。 船室と言っても実質的には倉庫である、酒樽や、穀物のつまった袋、火薬の入った樽などが雑然と置かれているため臭いがある。 ワルドはそれらを興味深そうに見回すと、小声でルイズに話しかけた。 「君の使い魔は?姿が見えないが…」 「空賊の頭領を狙うって言ってたわ…どうやるのか知らないけど」 「なるほど…では、伝説の『ガンダールヴ』を信じるとしようか」 その頃人修羅は、ヤモリのように船底に張り付いていた。 両手両足の爪を食い込ませて、少しずつ後甲板へと登っていく。 マリー・ガラント号は空賊の船に曳航されているが、海ではなく空なので飛び移るのにも神経を使う。 人修羅は背中のデルフリンガーに声をかけた。 「デルフ、後甲板に人はいるか?」 『見回りの空賊は前甲板に下りてったぜ、後ろには誰もいねえ』 「マストに登ってる見張りは?」 『ちょっと厄介だな…今はこっちを見てるぜ』 「後甲板に隙ができたら教えてくれ」 『おうよ』 人修羅が見た感じでは、空賊の船は大砲を舷側に供えていた。 移動式の大砲が甲板にも備えてあるかもしれないが、真後ろに撃つには時間がかかるはずだと考えていた。 『今だ、見張りが前を向いてるぜ!』 「よし」 人修羅は船の外壁から、後甲板へとよじ登った。 「高所恐怖症じゃなくて助かったな…」 そう呟きながらデルフリンガーを抜刀し、神経をとぎすませた。 「おい、誰だおま ぶ」 空賊の一人が人修羅に気付き、曲刀を向けるが時既に遅し、人修羅は手加減した一撃で空賊を昏倒させると、甲板を走り、空賊の船に向けて跳躍した。 (やっぱ恐ぇえええええええええええええええええええええええ!) 人修羅は叫ぶのを我慢しながら、ガンダールヴのルーンから送られてくる『最適な動作』を読み取り、空中で姿勢を整えて空賊の船へと着地した。 ドン!と音を立てて着地し、ガスン!とデルフリンガーを突き立てて身体を固定する。 「何だ!」 「貴様ぁ!」 空賊が人修羅の姿を見て驚くが、すぐさま武器を構えて人修羅を取り囲む。 「武器を捨てろ!」 杖を向けてそう叫ばれても、人修羅は恐れた様子もない。 『甲板の下、後部奥の部屋だ!』 デルフリンガーが叫ぶ、すると何人かの空賊はあからさまに表情を変えた。 「頭目はそこか」 デルフリンガーを引き抜くと、人修羅はまるで買い物に行くかのような気楽さで歩き出した。 「てめ え?」 人修羅に向けて斬りかかってきた男の武器を、素手で掴み、そのまま折る。 背後から杖を向けていた男の『エア・カッター』をデルフリンガーでかき消しつつ、甲板から船室に下りる跳ね上げ式の扉を蹴り砕いた。 「待て!」 「やめろ!」 空賊達の狼狽える様子を意に介すことなく、船の中に入った人修羅に向けて、何人かの屈強な男達が慌てて武器を構えた。 人修羅は息を吸い、全身に力を入れて『雄叫び』をあげる。 「 」 空賊達は一瞬意識を失いかけた上、で平衡感覚を失う。しかし船の上で揺れに耐えている空賊は耳をやられたぐらいでは倒れない。ただ、一瞬の隙ができるだけだ。 人修羅は身を低くして通路の奥へと駆け、一瞬で最奥の扉へとたどり着いた。 デルフリンガーを振るい、扉を×印に切断すると、人修羅は口を大きく開けた。 「ぎゃああ!」「うわ!」「殿下を…」 黄色のガスは船室にいる人間にショックを与え動きを鈍らせる、それが一時的な混乱を招く。 船室の真ん中に置かれたテーブルは、いかにも頭目だけが使えそうな重厚な作りであり、その奥の椅子にはボリュームのある黒髪と髭を蓄えた細身の男が座っていた。 『フォッグブレス』で混乱している隙に、人修羅はテーブルを飛び越え、頭目の隣へと着地した。 「殿…頭!下がって下せえ!」 混乱から回復した男達はそう叫ぶが、頭目からの返事はない。 別の男が、ガスが晴れた室内で頭目の姿を確認しようとして…「頭…あああああああっ!?」と声を上げた。 頭目は変わらぬ姿のままそこに居たが、隣には顔に刺青を入れた不気味な男が立っており、頭目の首へと剣を突きつけていた。 人修羅は空賊達の反応を見て、この男が空賊の頭目で間違いはなく、しかも都合の良い事に仲間からの信頼が厚いのだと感じていた。 デルフリンガーに『船内の異常を知らせに走る奴を探してくれ、そいつの行く先に頭目がいるはず』と頼んでいたが、これほどスムーズに確保できるとは思っても見なかった。 力ずくで頭目の身体を引き寄せ、左手で抱える。 頭目は、万力のような力で抱えられたため、このまま潰されるのではないかと背筋を寒くした。 「お前達、俺に構わず…ぐッ…」 「悪いが俺達の安全が確認できるまで、こいつは預からせて貰うぞ」 ◆◆◆◆◆◆ 一方、ルイズ達の閉じこめられている船倉では、空賊の一人が食事を運んでいる所だった。 この船倉はルイズ、ロングビル、ワルドの三人が閉じこめられている。 「飯だ」 扉の近くにいたルイズは、男を見てふん、とそっぽを向いた。 「質問に答えたら飯をやるぜ」 「…言ってごらんなさい」 ルイズがそう呟くと、空賊はにやりと笑った。 「お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」 「旅行よ」 ルイズは座ったままだが、毅然とした声で言った。 「トリステインの貴族が、いまどきのアルビオンに旅行とは…? なにを見物するつもりだい?」 「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」 「ほうほう、随分と強がるじゃねえか」 からかうような空賊の言葉に、ルイズは真っ向から見返す事で返答した。 空賊は一瞬驚いたような目をしたが、どこか仕方ないと言った笑みを浮かべ、皿と水の入ったコップを寄越した。 「ふん」 ルイズはそっぽを向いたが、ワルドがそれを窘める。 「食べないと、体がもたないぞ」 そう言われては逆らうわけにも行かない、しぶしぶといった顔で、スープの皿を手に取った。 ルイズは自分の分を飲むと、ロングビルを起こそうとしたが、揺すっても声をかけても目を覚まさない。 ロングビルの分を残してスープを飲むと、やる事が無くなってしまった、ワルドは壁に背をついて、なにやら物思いに耽っている。 しばらくすると、扉が開かれ、今度は痩せぎすの空賊が船倉へと入ってきた。 「おめえらは、アルビオンの貴族派か?」 ルイズは無言だが、眉がぴくんと動いたのを自覚した。 空賊は苦笑を浮かべて、くっくっくと笑う。 「くく、だんまりじゃわからねえって。でも貴族派だったら失礼したなあ、俺たちはあんた達の味方だ、王党派に味方しようとする酔狂な連中を捕まえるって、密命を帯びてるのさ」 その言葉を聞いて、ルイズはほんの少しの恐怖を感じたが…それ以上に冷静になっていく自分に気が付いた。 「…じゃあ、この船はやっぱり、反乱軍の軍艦なのね?」 「いーや、俺達はあくまで対等な関係ってやつでね、貴族派と協力し合ってるのさ、まあおめえらには関係が無い事だがなあ」 空賊はにやにやと笑いながらルイズ達の返答を待ったが、答える様子が無さそうなので言葉を続けた。 「で?おめえらはどうなんだ?貴族派ならきちんと港まで送ってやるよ」 ルイズは静かに立ち上がると、両手を腰に当て、空賊を真っ向から見据えた。 「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか!私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、王党派への使いよ。貴族派が勝利したわけでもないのに偉そうね! アルビオンの正統なる政府はアルビオンの王室よ、わたしはトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使。だから私を大使としての扱いにするようあんたたちに要求するわ」 これにはワルドも驚いた。空賊もまた驚いた様子を見せたが、すぐに気を取り直し、多少引きつった笑みを見せた。 「…正直なのは、確かに美徳だ。だが、お前たち、ただじゃ済まないぞ」 「私は、あんたたちに嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシだわ」 ルイズはそう言い切った、その瞳にまるで迷いは見られない。 「…そうか、頭に報告してくる。その間にどうなるか…ゆっくり考えるんだな」 空賊は呆れたように部屋を出て行った、 するとワルドが寄ってきて、ルイズの肩を叩いた。 「いいぞルイズ。さすがは僕の花嫁だ」 ルイズはため息をついて、俯いた。 ◆◆◆◆◆◆ 一方、人修羅は空賊の頭目を抱えたまま、海賊船の甲板へと移動していた。 眼前に広がる雲海の向こうに、巨大な大地が見える。 「あれがアルビオンか…凄いな。こうして見ると神聖な気さえしてくるのに、戦争の最中とはな…」 人修羅の呟きに何か思うところがあったのか、頭目が口を開いた。 「不甲斐ないと思うかね」 「何がだ?」 「神聖な大陸を統治しながら、貴族派閥に負けそうな王党派が、だよ」 人修羅はほんの少し、力を緩めた。 「…俺はハルケギニアに来て日が浅い。貴族派に負けているという理由だけで王党派を不甲斐ないと決めつけられるはずがない」 「ハルケギニアに来て……? まさか、エ…」 「言っておくが俺はエルフじゃない。人間だよ。使い魔として召喚されたのさ」 「人間…? …フフフ、君を使い魔にしたメイジは、さぞかし優秀なのだろう」 「優秀かどうかは、これからだな」 人修羅はそう言うと、自分の周りを囲んでいる空賊達を一瞥した。 空賊達はおのおのが武器を構えていたが、人修羅の強烈な殺気に射すくめられ身体を震わせた。 「飛ぶぞ」そう言うと人修羅はデルフリンガーに力を込めた、ルーンが発光し、最適な力加減が身体に浸透していく。 人修羅は、マリー・ガラント号に向けて跳躍した。 ◆◆◆◆◆◆ 「か、頭!」 マリー・ガラント号に乗っていた空賊は、突然甲板に飛び降りてきた人修羅と頭目を見て驚愕した。 「人質を解放して貰うぞ……って、アレ?」 人修羅もまた、着地の衝撃で頭目の頭から落ちた”カツラ”に驚いた。 「てめえ…頭を離せ!」 「あー……とりあえず船を解放して貰えないか。こっちも、なるべく危害は加えたくないんだ」 甲板で空賊と人修羅がにらみ合っていると、船室の中に入っていた別の空賊が、ルイズを羽交い締めにして甲板へと現れた。 「人修羅!」 「ルイズさん…」 人修羅とにらみ合っていた空賊は、懐から出した杖をルイズに向け「頭を放して貰おうか、でなけりゃこいつが傷つく事になるぞ」とまくしたてる。 そうは言ったものの、空賊は何処か乗り気ではない、仕方なく人質に杖を向けている…そんな気がした。 こんな時のために、人修羅は幾つかの奥の手を残してある。 敵を混乱させる『原色の舞踏』と、魔法を封じる『マカジャマオン』、そして問答無用で敵だけを殺す『マハムドオン』だ。 しかし、今回はそれを使う必要は無さそうだと思った、ルイズの目に、全く恐怖が浮かんでいないのだから。 「動くなっ!頭を離せ、でないとコイツが」 「殺すなら殺しなさい、下郎」 「!?」 ルイズの言葉は、空賊を驚かせた。 実はルイズ自身も強い恐怖心に苛まれているのだが、それを凌駕する自信が心を支え、ハッタリを可能にしている。 「私はトリステインから、正当なるアルビオンの王政、王党派への大使よ。あなた方が貴族派の貴族でも、第三国の大使への扱いぐらい心得ているでしょう。ニューカッスルまで私を送り届けなさい」 ルイズは、精一杯のハッタリを…おそらくハッタリを通り越して、真実として言い放った。 そこには、確かに貴族としての威厳が、カリスマが存在していた。 頭はルイズの言葉を聞いて、言った。 「王党派と言ったな?」 「ええ、言ったわ」 「なにしに行くんだ? あいつらは、明日にでも消えちまう」 「あんたらに言うことじゃないわ」 「……貴族派は、メイジを欲しがっている。貴族派につけばたんまり礼金も弾んでくれるぞ」 「死んでもイヤよ」 人修羅は苦笑した、ルイズの気の強さがここまでとは思っていなかった。 ルイズの体がほんの少し震えていることに気づいていたが、それでも自分を取り囲む空賊を見据えているその姿に、どこか晴れ晴れとしたものを感じた。 「はは、はっはっは!」 頭は笑った。人修羅に抱えられたまま、大声で笑った。 「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな…私を抱えている、君、すまないが私の眼帯と、付けひげを取ってくれないか?」 「頭!」 空賊の一人が驚いたように叫ぶ。 「いいんだ、お前達、彼女を解放し整列しろ」 周りに控えた空賊たちは、武器を床に置くと、甲板で整列した。 マリー・ガラント号の船員達もその様子に驚いている。 人修羅は頭目の眼帯と、付け髭を取った。 すると頭目は、凛々しい金髪の若者へと変身した。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……。本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しないがね。まあ、その肩書きよりこう言った方が通りが良いだろう。 …アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐりと開けた。ウェールズを抱えたままの人修羅も「なんじゃそりゃ」と言わんばかりに口を開けて、皇太子殿下を見つめている。 ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべた、人修羅は危険がないと判断し、ウェールズを解放した。 解放されると、直立して襟を正し、ルイズに向き直る。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」 この後、ウェールズの持つ『風のルビー』が、アンリエッタから預かった『水のルビー』によって本物だと証明された。 持ち主であるウェールズ皇太子も、幼い頃のルイズをラグドリアン湖の園遊会で見かけた等と思い出話を始めた事で、本人だと証明された。 なお人修羅は「知らなかったとはいえ皇太子殿下に剣を突きつけるとか、やりすぎよ!」と叫ぶルイズによって股間にトーキックを受け、天使達にお迎えされそうになった。これは全くの余談である。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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HR ケルピエル:火属性・MP19 覚醒前 覚醒後 基本情報 炎の天使。 ステータス 上から、覚醒後0凸・1凸・2凸・3凸・4凸後の最大値 武 智 美 ・Lv 50 :・Lv 62 :6567・Lv 74 :7304・Lv 87 :8107・Lv 100:8910 ・Lv 50 :・Lv 62 :5995・Lv 74 :6732・Lv 87 :7535・Lv 100:8338 ・Lv 50 :・Lv 62 :5786・Lv 74 :6523・Lv 87 :7326・Lv 100:8129 スキル 炎熱の棍棒 → 味方ユニット全体の武を結構UP アビリティ アビリティ1:炎の大激突( ) 敵1人に火属性の武を結構UPした攻撃・聖印数+5・消費BP40・制限4回・AP22 アビリティ2:炎獄の大波動(3凸で習得) 敵1人に火属性の智を結構UPした攻撃・聖印数+5・消費SP4・制限4回・AP22 関連イベント 特記事項 プレミアムガチャ 聖戦ガチャ
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前ページ次ページゼロの英雄 ルイズの手記-3 △月○日 結局アタラクシアって赤竜を追ってアルビオンに行くことになった。 行くついでに姫様に用事を頼まれる、密命を帯びてアルビオンに向かったワルド様がいつまで経っても帰ってこないらしい。 ラ・ロシェーヌで一旦休んでとか思ったけど甘かった、スピノザが全力を出せばアルビオンまでひとっ飛びじゃないの。 キュルケとギーシュも何故か付いてきた、スピノザが頼まれると断れなかったらしい。 アルビオンは戦争の真っ直中、最近押され気味だった貴族派が勢力を盛り返しつつあるらしい。 途中あわやレコン・キスタ間諜かと疑われたけれど、姫様から預かった水のルビーが証を立ててくれた。 ウェールズ様は素晴らしい方だ、戦況は苦しいが最後まで戦い抜くと仰られた毅然とした態度に思わず感動。 ただもし自分たちが戦死した場合姫様がに迷惑が掛かるだろうと一通の手紙を預かった。 その時輝く水のルビー、って私の属性って虚無だったの!? 試しに一発撃ってみたらすっごい爆発が起きて貴族派の主力が吹き飛んだ、これ幸いと年甲斐もなく特攻するジェームズ陛下。 一気に王党派に傾いた戦場の様子を見て、ウェールズ様に預かった手紙を返す。 ところで先行……もとい閃光のワルド様は一体何処に? 元レコン・キスタ総指揮官オリヴァー・クロムウェルは走っていた。 森を掻き分け、川を渡り、崖から転げ落ちながら、がむしゃらに追撃の魔の手を逃れようと走っていた。 わざわざ特注で作らせた僧服は木々に引っかけぼろぼろで、かつての神聖な面影など欠片もない。 酷使を繰り返したせいか右手の中指に付けたアンドバリの指輪は効力を失って久しい。 「ふ、ふふふ……」 つまりは自分は見捨てられたのだ。 あの人を人とも思わぬガリアの狂王に。 「ふひ、ふひひひひ……」 惨めだ、途方もなく惨めだ。いっそこのまま…… その時がさりと蠢くものがあった。 「ひっ」 森の木々の奥に覗く真紅の巨体、それを見た瞬間体が凍る。 「ひへぇぇぇぇええええ」 鋼すら通さぬ皮膚、人など塵程度にしか思ってないだろう二つの紅玉、金属製のゴーレムすらやすやすと引き裂く爪と、雷を呼ぶ二本の角。 あまりにも圧倒的なその存在に出会ったとき、人は考えることをやめただ恐怖する。 己の存在の矮小さ自覚するが故に…… 「ひへぇぇぇぇぇえ!」 そのドラゴンはクロムウェルの左腕を囓り取った、そのままさも不味そうに咀嚼し、ゆっくりと飲み下す。 ――ああ、自分はこのままこの竜の昼飯になる運命なのだ。 クロムウェルがそう思い、瞳を閉じた瞬間。奇跡が起こった。 聞き覚えのない詠唱が耳を叩く。 その詠唱が終わると同時に、真紅のドラゴンはまるで夢を見たように呆然と周囲を見回した。 「おうちに帰りましょうか」 ドラゴンは一声なくと、ゆっくりとその場を飛び去っていく。 「大丈夫ですか?」 クロムウェルはほっと一息吐いて、自分を助けてくれた相手のことを見た。 金髪の髪、ぴっちりとした衣服を押し上げる二つのたわわな果実、そして美しい顔から覗く尖った耳。 ――エルフ!? 一難去ってまた一難、今度こそ完璧に硬直したクロムウェルに向かってそのエルフはゆっくりと近づいて来る。 「来るな……」 クロムウェルは残った右手を掲げる、それは死を前にしたクロムウェルの精神が生き残りたい一心で体を動かした結果だった。 「来るなぁぁぁぁあああああ!」 「きゃっ!?」 血で汚れ、光を無くした筈の指輪が蠱惑的な光を放った。 △月×日 ウェールズ様に聞いたところによると、赤いドラゴンは王都ロンディニウムから西へ飛んでいったらしい。 ウェールズ様にお礼を言い、スピノザの背に乗って西へ飛んでいくと、意外な人物と出会った。 「タバサじゃない」 『雪風』の二つ名を持つトライアングルメイジ、それに奇妙な服装の黒髪の平民と高飛車そうな微妙にタバサ似の青髪の女の子。 ものっそいおでこが眩しかった。 「きゅいきゅい、スピノザさま奇遇なのねーるーるるー」 シルフィはシルフィで色々と吹っ切ったのか、スピノザに甘える用に顔を擦りつける。 韻竜だからって隠すことを止めたらしい、まぁこれだけ韻竜が出てくればね…… アタラクシアを探していると言ったら、おでこが突っかかってきた。 なんでよ? 聞いた話によると元々デコが召喚したらしい、じゃあなんでこんなとこにいるのよ?って聞いたら 「うるさいうるさいうるさーい!」 ――取られた、私の十八番取られた…… スピノザはスピノザで平民の持った剣を呆けた用に見つめていた、破竜剣 ダンテ ? なにそれ? 魔王竜を殺す為だけの武器? 二丁拳銃ぶっ放せるようになったり変身出来るように――いや、なんでもない。 「きゅいきゅいきゅいー、そんな物騒なものだと気づかなかったのねー!?」 シルフィはもうこれ以上背に乗せたくないと騒いで、怒り狂ったおでこに鞭を入れられている、哀れ。 スピノザに聞いたら竜の臭いがするから、アタラクシアはこの付近に暫く留まっていたらしい。 けれどちょっと前にこの場から離れた様子だとか、一体何処に行ったのだろう? ある時は大盗賊『土くれ』のフーケ。 ある時は魔法学院の秘書ミスロングビル。 しかしてその実体は、アルビオンの元公爵家の一人娘、マチルダ・オブ・サウスゴーダ。 マチルダは上機嫌だった、学院から盗み出した使い方の分からない『どらごん殺し』が信じられない値段で売れたのである。 盗品の販売を任せている知人から連絡が来た時はからかわれているのかと思ったが、どこぞの王族が見た目を気に入って買っていったらしい。 故にマチルダの懐は随分と温かかった、これで暫くは孤児院の子供達を飢えさせずに済む。 「ん?」 その時マチルダは異変を感じ取った、普段は外で元気いっぱい遊んでいるか畑の世話をしている筈の子供達が一人も見当たらない。 いつもなら誰か一人が「あ、マチルダ姉ちゃんだ!」と言う叫びが上がると共に一斉に揉みくちゃにされるのだが…… 「何か、あったのかね?」 異変を感じ取ったマチルダはフーケの顔になる、杖を取りだしゴーレム作成の呪文を唱えた。 作りだしたのは五メイルほどの土のゴーレム、戦力としては頼りないが様子見には十分。 マチルダはゴーレムを使って孤児院の扉を開け…… 転がるようにしてその場から飛び退いた。 マチルダ立っていた場所を閃光のように細腕が薙ぐ、そのあまりの鋭さに回避したと言うのにマチルダの頬に血の玉が浮かんだ。 刺客は奇妙なことにどこかで見たようなメイド服を着込み、その左手に身の丈もある大剣を持っている。 ――こいつが、テファ達を! ぎりりと血が出るほどに唇を噛みしめる、そのまま渾身の精神力を込めて杖を振るった。 「此処に居た子達の仇だよ!」 地面から巨大な腕が生えた。 その腕は小柄なメイド服の人影を一薙ぎすると、そのまま地面から生えるに全長三十メイル以上の巨大なゴーレムへと成長した。 これで仕留めた、暗い感動に身を震わせたマチルダは薄れる土煙の奥に信じられないものを見た。 「なんて、奴だい……」 メイド服の人影は傷一つないまま、ゴーレムの腕の上に立っていた。 格が違う、そう理解したマチルダはゆっくりと杖を棄てる。 「参った、殺したいなら好きにしな」 目の前のメイドはとんでもない化け物だった、正攻法では絶対に敵わない。 ――だから自分の首を刎ねようと近づいて来た隙に、差し違えてでも仕留める。 太もものガーターベルトの仕込んだ予備の杖に手を当てながら、マチルダは今生最後と決めた呪文を唱え…… 「ミスロングビル?」 「おでれーた、このおっかねぇ姉ちゃんはシエスタの知り合いかい」 あまりにも予想外の名前を呼ばれたことに、今度こそ本当に杖を取り落とした。 ジョゼフの手記-3 △月×日 パソコンが動かなくなった、ガッデム! 理由は分からないのでマキシマムスピィィィンとばかりに頑張ってみたらEscが取れた。 修理を配下に任せ――パソコンのエロ画像が見れなくなって皆半狂乱だが……に託し、何故か青筋を浮かべたビダーシャルにイザベラ達が行ったらしきアルビオンの情勢を尋ねた。 「レコン・キスタがまた勢力を盛り返している」 待て、今なんと言った? もう一度聞きなおしてみても結果は変わらない、あの状況からどうやって…… 尋ねてみるとクロムウェルはエルフと真紅の魔竜と言う手札を手に入れて狂ったように暴れまわっているらしい、しかも死人の兵まで動員していると言う――どう考えても私がくれてやったアンドバリの指輪の効果じゃねぇか! しかもビダーシャルは人間がエルフを操っていることに激怒している、超恐い。 これ以上我が同胞を穢すつもりなら我等エルフ全てを敵に回すことを覚悟せよとか恐い、超々恐い、なんかキャラまで変わってるしよぉ…… いくらなんでも頃合いだろう、アルビオン内乱に介入することを決定し準備を進める。 だが準備と言う段階になって困ったことがあるのことにを気づく、最近ろくすっぽ暗躍していなかったので船が足りないのだ。 浮遊大陸でアルビオンに侵攻するには大規模な航空戦力が必要になる、我がガリアもある程度の航空戦力は有してはいるものの準備不足故いまいち決め手に欠ける。 まったく予想外の事態ばかり起こって楽しくて仕方がない、そんなことを考えていたら困惑した様子の部下が報告にやってきた。 ――コルベールが一週間でやってくれました! 魔法学院から客室研究員として招聘したハゲにパソコンで見た飛空艇と言う船のことを話したら、本当に作ってしまったらしい。 蒸気機関と言う燃料を燃やして動くカラクリを使い、風石さえあればメイジがいなくても空を飛ぶ船。 もしくは風石がなくても僅かな疲労で済むレビテーションだけで大空を駆けることが出来る船。 それなんてチート? 本人はしきりに後悔していたが知ったことではない、配下に命じて既存の船を全て飛空艇に改造させる。 いよっしゃー待ってろアルビオン、狂王ジョゼフが今いくぜー! 「そう言うことだったのかい、悪かったね……」 「いえいえ、見なかったことにして放っておくことは出来なかったので」 シエスタはその黒い髪を揺らし、ニコリと笑った。 子供達はティファニアが連れ去られた後、マチルダの言いつけを破って街へと探しに出たらしい。 その折り夜盗化した傭兵達に襲われたところをシエスタが助けに入り、とりあえず元の孤児院でマチルダの帰りを待つことにしたのだ。 いきなり手刀を叩き込もうとしたのは、マチルダがどう見ても夜盗にしか見えなかったからだとシエスタは言った。 「まぁ、確かに夜盗には違いないけどさ……」 マチルダはそう言って愚痴を零す。 「しかしあんた、一体何者だい?」 「いえ、学院で奉公させていただいている”ただ”のメイドですけど」 「ただのメイドがあんな動き出来るはずないじゃないのさ、それに何それ」 「俺っちのことかい?」 カタカタと音を立てながらデルフリンガーは言った。 「魔法を吸い取るインテリジェンス・ソードなんて伝説級の剣じゃないのさ」 たしかにただのメイドが持っていていい武器ではない。 「これはおばあちゃんの遺品でして」 「――何者だい、あんたのおばあちゃん」 「ただのメイドですよ、わたしは護身術からメイドの仕事の仕方まで全部おばあちゃんから教えて貰ったんです」 思わずマチルダの顔が引きつる、シエスタが護身術と言っているものは暗殺者の用いる体術そのものだったからだ。 「そう言えば、一度だけ変なことを言ってました」 ぽんとシエスタは手を叩いた。 「どんなだい?」 「遠い異国の言葉だったので意味は分からなかったんですけどね」 「駄目じゃねぇか!」 デルフリンガーが笑う。 「でもあの時のおばあちゃんの顔、凄く寂しそうで……」 「そうかい……」 しんみりした気持ちのままマチルダはシエスタを見た、誰にだって大切な過去の一つや二つくらいはある。 「ところであたしはこれからテファを連れ戻しに行く……」 子供達を頼む、そう言おうとしたマチルダの唇をシエスタの細い指が押さえ込んだ。 「水臭いですよ、辛い時は助けてくださいって言えばいいんです」 シエスタは笑った。 太陽のようなその笑みに、マチルダは思わず泣きそうになってしまった。 ???の手記 ――恐らく、神はこの私を許すまい。 それでも構わない、たとえこの身が悪魔と呼ばれようともけして私は躊躇うまい。 「本当にいいんだな?」 友の声に、娘は「お願いします」と答えた。 友が、左手に構えた大剣を振りかぶる。 音を立てて振り下ろされた剣が祈るように目を閉じたエルフの胸に突き立った。 流れる血潮、命の結晶。 それを前にして私は呪文を唱える。 コントラクト・サーヴァント。 対象を己が使い魔とする呪われた呪文を。 「エルフ達は私たちを許しますまい」 そのようなことは分かっている。 それでも、この人とエルフの血が混じった娘は願ったのだ。 人と人、人とエルフが憎しみあわずに暮らすことが出来る世界が来ることを。 確かにこの儀式が成功すれば長きに渡って続いてきたエルフとの戦いは終わるに違いない。 果たしてそれが、正しいことなのかどうかはともかくとして…… 「だが、それが娘っこの願いだろ?」 相変わらずひねた口調で、友は言った。 随分と長い付き合いだがこれほどやりきれない口調は初めてだった。 「なぁ、一つだけ頼みがあるんだが……」 それを皆まで聞かず、私は詠唱を終える。 そして今生の別れを惜しむようにその娘の唇へ口付けた。 五つの力を司るペンタゴン この者に呪いを与え、我の使い魔となせ 血が光へと変わり、娘の胸に使い魔のルーンが刻まれる。 私はただ憐れな娘のことを見ていた。 後の世のために生贄となることを望んだ、憐れなハーフエルフの娘のことを見ていた。 後世に伝えることすら憚られる、おぞましくも悲しい使い魔のことを私は見ていたのだ。 前ページ次ページゼロの英雄
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前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 始祖降臨祭の期間中の、ある真夜中。 シェフィールドは地元出身のフーケ(マチルダ)と、ついでにベアード(ワルド)を連れて、 雪深いサウスゴータの山中に入っていった。シティからは30リーグほど離れている。 土メイジのフーケにとって、自分の故郷の土地は庭にも等しい。暗闇の中でも大地の様子は手に取るように分かる。 ベアードも『魔眼』を用いて足元を照らし、地下の水脈を見つけ出し、遡っていく。 やがて、滾々と清水が湧き出ている、開けた岩場に出た。 「……ここが、サウスゴータで一番の水源地さ。市内の三分の一ほどの井戸は、ここから水を引いているはず。 にしても、毒を流すといっても水量が膨大だから、相当薄まってしまうんじゃないかい?」 「毒じゃないわ。むしろクスリよ、クスリ。くっくくくく」 シェフィールドは、ポケットから指輪を一つ取り出した。 「それは、クロムウェルのしていた指輪じゃないの」 「いいえ、これは私のもの。盗んできたのはべリアルのじじいだけどね。 もともとはトリステインのラグドリアン湖にあった、『水の精霊』の秘宝。 その名も『アンドバリの指輪』よ。聞いたことはない?」 「宝石から放つ魔力で生物の心身を乗っ取り、意のままに操るという恐るべき指輪だな。 透明な液状の体をもつ先住の存在、『水の精霊』の力を凝縮したものだとか」 「そう。心身の変性が『水』の系統の本質であるならば、これはいわば、水の秘薬の結晶。 その力を解放すれば、何万という人間を一人で操ることも可能なのさ。 あれが神聖皇帝なんて名乗っていられるのは、この指輪あってのことよ。 もちろん、我がガリア王国が強力にサポートしたからでもあるけどね」 シェフィールドは二人に羊皮紙を手渡すと、水源に指輪をかざした。 額のルーンが輝きを放つ。『虚無の使い魔』のひとつ、魔法具を自在に操る『ミョズニトニルン』の印だ。 「これから、この水源地に『アンドバリの指輪』の力を解放するわ。 さあ二人とも、その紙に書いてある呪文を唱えて。 《きれいはきたない、きたないはきれい。闇と汚れの中を飛ぼう》……」 あまり聞いたことのない呪文である。指輪の魔力を解放するための、先住の魔法のようだ。 「ねぇ、セリフのパート分けや振り付けまで指示してあるんだけど。何これ、劇の脚本?」 「ふん、『マクベス』か。まぁあの劇にも、いろいろ秘術が記されているらしいがな」 「ほら、早く呪文を唱えなよ! 魔女の先住魔法には、こういうのも必要なんだから!」 《「三度鳴いたぞ、ブチ猫が」「三度と一度は、ハリネズミ」「『いまだ、いまだ』と化けもの鳥」 「釜の周りを回ろうよ、腐った臓物放り込め! まずは冷たい石の下、三十一夜を眠りつつ、毒の汗かくヒキガエル。ぐらぐら煮えろ、釜の中」 「「「苦労も苦悩も火にくべろ、燃えろよ燃えろ、煮えたぎれ!!」」」 「お次は蛇のブツ切りだ、ぐらぐら煮えろ、釜の中。 カエルの指先、イモリの目、コウモリの羽根、犬のべろ、マムシの舌先、蛇の牙、フクロウの羽根、トカゲの手。 苦労と苦悩のまじないに、地獄の雑炊煮えたぎれ!」 「「「苦労も苦悩も火にくべろ、燃えろよ燃えろ、煮えたぎれ!!」」」 「狼の歯に龍の皮、鮫の胃袋煮えたぎれ。闇夜に抜いた毒ニンジン、ユダヤ人から腐れ肝、 山羊の胆汁、月食の、夜に手折ったイチイの木。トルコ人から鷲っ鼻、タタール人から厚唇、 売女がドブに生み落とし、すぐ首絞めた赤子の指。トロリトロリと煮えたぎれ! おまけに虎のはらわたを、入れて薬味をきかせよう」 「「「苦労も苦悩も火にくべろ、燃えろよ燃えろ、煮えたぎれ!!」」」 「ヒヒの血注ぎ冷ましたら、これでまじないおしまいだ」》 (シェークスピア『マクベス』第四幕・第一場、三人の魔女) 呪文の詠唱が終わるや、指輪の宝石はとろりと溶けて、水源に滴り落ちた。 「ははははは、さあこれで世の中、もっと面白くなるよ!」 始祖降臨祭の最終日の朝。シティ・オブ・サウスゴータは一面の銀世界だ。 駐屯している連合軍の司令部は、市内最高級の宿屋の二階大ホールにあった。 トリステインの軍首脳部は、明日以降の侵攻作戦について話し合いをしている。 集まっているのはド・ポワチエ将軍、ウィンプフェン参謀総長、ラ・ラメー空軍司令官など。 「明日で休戦期間も終了、また戦争が始まりますな。補給物資の搬入は今夜までに全て終わります」 「間に合ったな、やれやれ。アルビオンの騙し討ちもなかったし、奴らも余裕はなかろう。 一気にロンディニウムを包囲するか、外堀を埋めて孤立させ、内応を図るかというところだ」 ははは、と笑いが出る。休戦期間が長かったため、やや気分が弛緩しているのだ。 「ところで、ハルデンベルグ侯爵やゲルマニアの将軍たちは?」 「ロサイスや周辺都市に、抑えのため分散させた軍の一部に、不穏な動きがあるとかでな。 調査中につき、軍議には遅れてくるそうだ。ふん、まあトリステイン軍だけでも進軍してしまうか」 「そういうわけにも行きませんなあ。彼らの新兵器は、この戦争になくてはならないものですし」 と、ドアがノックされる。 「誰だ、何用だ? 軍議中だぞ」 「王室よりお届け物です。今朝の便で届きました」 届いた荷物は、王室の紋章が彫られた豪華な木箱だ。デムリ財務卿からの手紙も付いている。 読めば『先日、ド・ポワチエ将軍の元帥昇進が決定。この杖で残りの連勝街道を指揮されよ』とある。 いそいそと箱を開けると、黒檀に金で王家の紋章が彫り込まれた見事な杖が入っていた。 「おお、これは元帥杖ではないか! 財務卿も粋な計らいをなさる!」 「おめでとうございます、元帥閣下!」 「いやっははは、これで気を引き締めろということだろう。ゲルマニア軍が戻り次第、首都に向けて……」 新元帥がいい気になっているところを、ドーーーーンという爆発音が遮る。 「むっ、何事だ?」 急いで窓の外を見ると、どうやら近くの宿舎で火薬の暴発があったらしい。 通りを沢山の兵士が駆け回っているが、消火しているのではなさそうだ。 「あの旗印は、西側に駐屯しているラ・シェーヌ連隊のものだぞ。どうしたのだ、武装して?」 「あっちには、ロッシャ連隊もうろついていますな。この長い休みで指揮系統を忘れておるのでは?」 「いや、なにやら市民たちも、勝手に銃や剣を持っていますが……」 一同が首を傾げるうちに、外の兵士たちは無表情のまま、銃口を上に向けた。 窓の傍にいた新元帥閣下は、元帥杖とともに一斉射撃を受け、蜂の巣になって倒れた。 「「「……は、反乱だーーっ!!」」」 将軍たちは一斉に叫ぶ。その直後、司令部の部屋に士官が飛び込んでくる。 「反乱です! 街の西区に駐屯していた連隊が、一斉に反乱を起こしました! 現在、街の各地で我が軍と交戦中! ここも危険です、退避してください!!」 「なんじゃとぉ!? アルビオンからカネでも貰ったのか?」 「げ、ゲルマニア軍はどうした!? まさか奴らがトリステインを裏切りおったのか!?」 「詳細は分かりません! 次から次へと反乱兵は増えていきます!」 「……ということは、どういうことかね」 「西区以外の兵士や市民も、次々と暴動を起こしているのです! 反撃しようにも、武器弾薬はあらかた向こうに奪われておりまして」 「では奴らの暴れるままにしておくのか」 「今のところ、それ以外どうすることもできません」 「じゃあ、この街を取られてしまうじゃないか! どうして何のために反乱したのかね?」 「それが全く分かりません! は、早くお逃げください!」 士官の報告は全く要領を得ない。反乱の理由が分からないなら、敵の魔法か何かかもしれない。 トリステインの将軍や士官たちは、元帥が殉職したため、ぐるっと一人の男の方を振り向いた。 「「「ご、ご命令を! ウィンプフェン総司令官閣下!」」」 「え、わ、私が? ……た、退避だ! 総員退却せよ!!」 連合軍の崩壊は早かった。 原因の全く分からない兵士たちの反乱、総司令官の殉職、総司令部のいち早い脱出による指揮系統の混乱。 無表情に戦友へ銃口を向ける反乱兵の様子から、何らかの魔法によるものとは考えられるが、どうしようもない。 なにしろシティ・オブ・サウスゴータの市民さえ、武器を持って一糸乱れぬ動きで襲い掛かってくるのだ。 しかもゲルマニア軍は、いつの間にか綺麗に姿を消している。残っているのはトリステイン軍だけだった。 「畜生! ゲルマニア軍め、俺たちをアルビオンに売り渡したのか!? 司令官まで逃げやがって!」 「う、撃てねえ! あいつらはこないだまで、一緒に飲み明かしていた連中じゃねえか!」 「それどころか、市民のガキどもまで銃を持っているんだぞ! 撃ち殺すか、退却するか? 降伏しちまうか?」 「おい、俺の兄弟が西側にいたんだ、撃たないでくれ!」 「兵隊さん、わしの家族を知りませんか!? まさかあの反乱軍の中に?」 「ええーい、どけ! こっちの命も危ないだろうが、まとわりつくな!」 「おいっ、大砲の中に身を隠すやつがあるかっ」「ぎゃっ、火薬がしけっているぞ!」「うわぁあ、ものすごいことしはる」 混乱に次ぐ混乱。昼前には、市内の防衛線は崩壊し、いたるところで王軍は潰走を始めた。 生き残ったウィンプフェンらは、街の南東部の外れに臨時司令部を置き、事態の収拾に努めようとする。 市民を含めた反乱兵は、トリステイン軍全体のおよそ三分の一から半分。残る正常な軍は三万にも満たない。 偵察の竜騎士から『アルビオン軍主力の四万がこちらに進撃中』との急報が入り、さらなる混乱が広がる。 「こ、ここはもうダメだ! ひとまずロサイスまで退却しろ!! そこから伝令を出して、トリステイン政府に直接指示を仰ぐ!」 だが、ロサイスには敵艦隊が多数停泊しており、近付けば砲撃してくる。伝令さえも撃ち落される。 今やアルビオンとゲルマニアが手を結んだ事は、明らかだった。敵軍は総勢七万を超える勢いだ。 トリステイン軍三万足らずは、いつの間にかアルビオン大陸の只中に、完全に孤立していた。 臨時司令部には絶望感が漂い、正常な兵士たちも続々と投降を始める始末だった。 やがて総司令部は、敵軍の手薄なスカボロー港へ向かって逃げ出した。商用のフネを奪って国へ帰る気だ。 それを追って、残った軍勢もぞろぞろと敗走する。 一方、松下たちは一部市民や『妖怪亭』の一同と共に、ホウキに乗って市外へ脱出していた。 周りでは騎士も歩兵も武器を打ち捨て、右往左往している。 「ふーっ、マツシタ! これはいったい、どういうこと!?」 「アルビオンの魔法兵器による強制反乱だな。まさか、ここまでやるとは! 恐らく例の『アンドバリの指輪』を水源地で発動させ、市内の水を飲んだ人間を片っ端から操っているのだろう。 こうなればもう、ぼくの手にも負えない。血路を開いてアルビオンから逃げるとしよう」 「そ、そんなあっさり! あんたなら何とかなると思ったのに」 ルイズは興奮するが、松下は至極冷静だ。 「ゲルマニアまで敵側に回ったんだぞ、そのうちガリア艦隊だって来るかもしれん。 不吉な事を言うようだが、恐らくトリステイン本国も、今頃は両国から総攻撃を受けているだろう……」 「じょ、冗談じゃないわ! 何でゲルマニアまで!? クロムウェルを打倒して、共和制を封じ込め、アルビオンの王政復古を成し遂げるんじゃなかったの?」 「とにかく、生き残ることが先決だ。きみがよければアルビオン共和国に降伏しようか? そしてクロムウェル政府の内側から、真の『千年王国』の教えを説いて回ってもいいが」 「いやよ、降伏なんて絶対にいや! 命より富より『名誉』が大事よ、本当の、精神的な貴族は!」 貴族とは『敵に背を向けずに戦う者』だと、ルイズは家族から教育されたし、常々そう思ってきた。 その貴族である上級将校たちが兵士や市民を置いていち早く脱出し、味方も次々と逃げ惑い、敵に降伏する。 誇り高い貴族を必要以上に自認するルイズにとって、耐え難い屈辱的な事態であった。 人間を超えた知能と視野を持ち、ある意味で柔軟な思考をする松下には、これも人間のひとつの姿でしかなかったが。 「融通の利かない奴だなぁ、相変わらず。我ら『千年王国』の教えは、そんなことにとらわれず、 人間全ての平等と幸福の、あるべき道を説いているのだが……」 「そんなこととは何よ、この精神的奇形児! 天災児! あんたが降伏したけりゃ、勝手にしなさい! 私は死ぬまで戦うわ!」 金切り声を上げるルイズ。ふぅ、と松下は溜息をつく。 「こんなところで『ご主人様』に死なれても、こっちが困る。 きみは『虚無の担い手』だぞ? メシアに匹敵する強い『命運』を持って生まれた、選ばれし人間なのだ。 まだきみの顔に死相は出ていない、今は死ぬべき時ではないのだよ。 降伏がいやならスカボローへ向かおう。トリステインもタルブも心配だ」 ルイズは少し落ち着いた。まぁ、むやみやたらと死にたくはない。 「……そうね、女王陛下だって本国で苦戦しておられるかも。国家存亡の危機を救わなきゃ! あ、そうよ、私の『虚無』の力でこの場を何とかできないかしら? ほら、タルブの時みたいに、あんたと協力して……!」 「そうそう都合よくいくもんかなあ。まあ、『祈祷書』を読んで、いい呪文を探しておいてくれ」 さて、深夜を過ぎて鶏鳴の頃、全力で逃走していた総司令部は、どうにかスカボローへたどり着いた。 そこへホウキに乗って、金髪の若者もやってくる。松下たちとは別行動をしているギーシュだった。 顔は蒼褪め目は血走り、胸には先日貰った勲章を沢山くっつけている。 「おお、きみはギーシュ・ド・グラモンくん! 無事だったかね!」 「ええ、お蔭さまで! ご無事で何よりですウィンプフェン参謀総長、いや総司令官閣下!」 ギーシュはほっとした。スカボロー港のフネは残り少ないようだ、さっさと逃げて来てよかった。生存への切符は先着順だ。 これでアルビオンから逃げられる、命が助かる。名誉も富も大事だが、それは命があってこそだ。 『命を惜しむな、名を惜しめ』というグラモン家の家訓は、美酒に酔っ払ってどこかへ置き忘れてしまった。 しかし、将校たちからは、ギーシュへの疑いの眼差しもあった。 「そうだ、きみは確かマツシタ伯爵と一緒にいたのでは? そのホウキは彼が作ったのだろう?」 「し、知りませんよ、ぼかぁ知りません、知りませんったら!」 「いや、反乱の首謀者として彼らが怪しいと言っているわけではないが、その可能性もあるな……」 「ふうむ、でギーシュくん、何かよい策はないかね? 少しでも敵の襲来を足止めせねば、我々の脱出も困難となる」 ……いかん、怪しまれている。この場を何とか言い逃れなくては。 ゲルマニア軍が裏切るとは予想外だったが、恐らく反乱兵と同じような、何かの魔法のせいだろう。 ブラウナウ伯爵やジュリオくんは、きっと僕を見捨てたりしないはず。きっと。 そうだ、今こそ千載一遇のチャンスじゃないか。あの『悪魔くん』を死地へ向かわせ、暗殺させるのだ。 さすれば僕には3万エキューというカネと名誉が転がり込み、栄光ある自由とゲルマニアの武器工場の経営権が舞い込んできて、 モンモランシーを娶り美女を侍らせて、左ウチワで遊んで暮らせるんじゃないか。おお、チャンスは今しかない。 「そ、そうです! マツシタたち『千年王国』教団を、反乱兵やアルビオン軍とぶつけては!?」 ジュリオに飲まされた『魔酒』でアタマが少し変になっているギーシュは、苦し紛れに松下を裏切る言葉を口にした。 これも、黒幕の一人ダニエル・ヒトラーの策略のうちだったのだが。 「おお、それだ! それがよろしい!」 「あやつらは王軍でもないのに目立ちすぎますし、何だか熱狂的で気持ち悪い集団ですし」 「毒を以って毒を制す、だ!」 「悪魔には悪魔を、ということですな! 分かります!」 恐慌と混乱の極みにあった総司令部は、ギーシュの策に飛びついた。 ギーシュは再び、心からほっとする。しかし……。 「で、勿論きみも戦ってくれるんだよね? 我らの英雄ギーシュくん。彼らに連絡もせねばならんし」 「………………………………え?」 《今夜、鶏が鳴く前に、あなたは三度、私を知らないと言うだろう》 (新約聖書『マタイによる福音書』第二十六章より) (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
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ランスロット&ガウェイン プロモーションカード UNIT E-004 赤 3-4-1 P ナイトメアフレーム コンビ Sサイズ [4][3][4] 出典 「コードギアス反逆のルルーシュ」 2006 このカードから武装変更できるカード ランスロット・エアキャヴァルリー ランスロット(MVS装備) ランスロット&紅蓮弐式 ランスロット・コンクエスター ランスロット・アルビオン
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前ページ次ページゼロと電流 ルイズ、アニエス、アンリエッタは一つのテーブルを囲んでいた。 食事ではない。 三人の真ん中には、小さな銃弾が置かれていた。 「これが、弾?」 アニエスは自分の使用している銃の弾をそこに並べていた。 「似ても似つかないな」 「ハルケギニアの銃と、ザボーガーの速射破壊銃を一緒にされても困るわ」 「確かにそうだが」 アニエスは速射破壊銃の銃弾を手にとって、頭上にかざしては見つめる。 「土くれのフーケのゴーレムをあっさりと破壊したと聞いたが、それほどの力が込められているとはな」 「その銃弾そのものにはそこまでの力はないわ。確かに、ハルケギニアの銃弾よりは強いけれど」 ルイズの言葉を聞きながら、アンリエッタは速射破壊銃の弾をアニエスから受け取る。 「それにしても、ずいぶんと精密に作られているようですね。これと全く同じ形のものが、ザボーガーの中に百以上とあるのでしょう?」 「ですが、数に限りあることに違いはありません」 「出来る限り協力しましょう。ですが、数をこなすことが出来るかどうか」 土メイジによる錬金で銃弾を作る。それがルイズの出したアイデアだった。 量産はきかないが、時間さえかければある程度の数は揃えることが出来る。 ザボーガーの記憶の中でのΣ団や恐竜軍団との戦いの様に、毎回毎回速射破壊銃を使うことはルイズも諦めていた。もっとも、普通のメイジや騎士相手であれば、ブーメランカッターとチェーンパンチでだいたいは相手できる。速射破壊銃が必要になる戦いというのは滅多にないはずだった。 そもそも、速射破壊銃の破壊力は銃弾の力ではない。 元の世界で言うならば、ダイモニウムエネルギー(怒りの電流)を付与することによって破壊力を爆発的に上昇させていたのだ。 ハルキゲニアで言うならば、ルイズの虚無魔力である。 つまり、きちんと放つことの出来る銃弾さえ作れば、攻撃力は魔力で嵩上げできるのだ。 これは、ブーメランカッターやチェーンパンチにも同じ事が言える。 それぞれの切れ味、破壊力、速度、全てが虚無……あるいはダイモニウムエネルギー、怒りの電流によって増幅されるのだ。 「あとは整備の問題ですけれど、致命的な破壊さえなければ、私のガンダールヴのルーンと虚無魔法〈記録〉で得た知識で何とかなると思います」 言いながらも、ルイズの表情はやや暗い。 アンリエッタが指摘すると、ルイスはすぐにそれを認めた。 「本当に壊れてしまった場合、私の知識では修理は出来ません。いえ、多分、ハルキゲニアの全ての知識を結集しても無理でしょう」 「その可能性はどれほどなのだ?」 アニエスが尋ねた。 「修理が難しいとはいえ、それほどに破壊されるには、どれだけの攻撃を受ければいいのだ?」 「それはわかりませんが、少なくとも、私の虚無魔法ならばザボーガーを破壊する可能性があります」 くわえて、自分の母ならばそれほどの打撃を与えることも可能かも知れない、とルイズは考えていた。 そのときだった。 アニエス配下であり女王直属の部隊である銃士隊の一人が姿を見せる。 その急いで駆けつけた様子に、何があったのかと尋ねるアニエス。 銃士隊員は一瞬、ルイズとアニエスの姿に目を止めるが、アンリエッタは構わず話せと命じた。 「姫様に至急お目通りを願いたいと、二人連れが」 「こんな時間に?」 アニエスは苛立ったように尋ねる。 「何者だ」 「それが、一人は騎士の姿を。もう一人は平民の姿ですが、妙なものにまたがり……」 「妙な?」 「ミス・ヴァリエールの使い魔に似ていましたが」 「なんだとっ?」 「烈風よりの危急の用件といえば通されるはずだ、と申しておりますが」 アンリエッタとルイズは顔を見合わせる。 烈風の名に二人は心当たりがあった。いや、ありすぎた。 ルイズの母カリーヌのかつての異名、烈風カリンである。 烈風カリンの名を知らぬトリステイン貴族はいないと言っていいだろう。その正体は不明とされているが、まさに一騎当千、かつてトリステイン最強の騎士と呼ばれたメイジである。 そして、烈風カリンがカリーヌであることを知るものは少ない。 「二人を通しなさい。それから、マザリーニをすぐここに」 「はっ」 アンリエッタの応えにルイズは一瞬言葉を失い、蒼白となって辺りを見回す。 「お、お母さまが……」 「ルイズ、諦めなさい」 「で、でも、姫様」 「一緒にお叱りを受けましょう。幼い頃の様に」 「一緒に?」 「貴方をアルビオンへ送った私の責、無視するわけにはいきませんから」 「それは私が」 「ルイズ、私に恥をかかせるつもりですか?」 あくまで優雅に、アンリエッタは立ち上がる。 「幼馴染みを死地へと送り込んだうえ、そのことに気付かずにいた、と私に言わせるつもりですか?」 「それは」 「親友を死地へ送る非情と死地と知らずに送る無知。選ぶとすれば私は、前者の罪を選びます」 国を治める者として許されざる罪は後者。アンリエッタはそう言っていた。 選ばれるべきは前者であって後者ではない。 「非情を糾弾されるなら、私は甘んじて受け止めましょう」 「では、その策を進言したのは私と言うことで」 マザリーニが、寝起きとは思えぬきちんとした姿で現れた。 「もっとも、烈風カリンともあろう者がそれだけのためにこの場に姿を見せるとも思えませんが」 「睡眠時間の確保は大切ですよ」 「同じ言葉をお返ししましょう。ですが、お気遣いには感謝します」 マザリーニは寝ていないのだろう。おそらくは何らかの事態を予測して待機していたか、あるいは自室に籠もって書類を弄っていたか。 銃士隊に先導されたカリーヌが姿を見せたとき、思わずルイズは声を上げる。 「シエスタ?」 カリーヌの後ろで怯える様に辺りを見回しながら従っているのは、他でもないシエスタであった。 「ルイズ様?」 「どうして、シエスタが?」 そのやりとりが目に入らない様に、カリーヌはアンリエッタに挨拶を述べた。 それは、ラ・ヴァリエール公爵夫人としての挨拶ではなかった。あくまでも元マンティコア隊隊長、烈風カリンとしての挨拶である。 「くだくだしい挨拶は止めましょう。烈風カリンの名を出すと言うことは、真の緊急事態と言うことですね?」 「はい」 「それで、彼女は?」 シエスタに目をやるアンリエッタ。 シエスタはルイズの姿に驚き、ついで安堵していたが、トリステイン王女を目の前にしていると気づき、慌てて平伏している。 「名はシエスタ」 そしてルイズは次のカリーヌの言葉に、心の底から驚くことになる。 「彼女は、アルビオンの虚無の使い魔ヴィンダールヴ。そして異世界のゴーレム、マシンホークの主でもあります」 アルビオンの革命は終わった。王国は滅び、新たに神聖アルビオン共和国が誕生した。 そして、初代皇帝クロムウェルは告げる。 我に他国への侵略の意志なし。我は腐りきった王家へと誅を下したのみである、と。 だが、その言葉がクロムウェルのものでないと知る者は少ない。いや、クロムウェル自身が既に死人だということすら、知るものは殆どいないのだ。 「糸を引いていたガリアですら、知っている者はそういないだろう」 確実に知っているのはシェフィールドのみ。とワルドは指を一本立てる。 シェフィールドがジョゼフに伝えているかどうか、それすら定かではないのだ。 「ガリアの王家は、親子仲が良いという状態にはほど遠いと聞いているからね」 シェフィールドの正体がジョゼフの娘、ガリアの姫であるイザベラ自身であることを、ワルドは知っている。 そして、クロムウェルがワルドの傀儡であり、アンドバリの指輪が今やワルドの手にあることをイザベラは知っているのだ。 勿論、互いに口にしたわけではないし、確たる証拠を与えたわけでも得たわけでもない。それでも、それらの事実は互いにとっての密約の証、あるいは質草となっていた。 「私には、首根っこを掴まれているようにしか見えないのだけれど?」 事情は、マチルダにもわかっている。 イザベラがワルドの味方になったのではない。今現在の仮想敵が同じ相手、ガリア王ジョゼフであるというだけだ。 ジョゼフが倒れれば、イザベラはあっさりとアルビオンの内情を暴露するだろう。おそらくは、アンドバリの指輪の現状も含めて。勿論そこには、ガリアの立場を悪くしないための虚偽も含まれるはずだ。 しかし、ジョゼフ失脚がそう簡単にできることだとはワルドもマチルダも、そしてイザベラも考えてはいない。 当面は、同じ敵を持つ者として足を引っ張る真似だけはしない。そういうことだ。 「それで、どうするんだい?」 「マチルダ、君にはフーケの経験を生かして探って欲しいことがある。いや、潜入と言ってもいいかな」 「ガリアかい」 「さすがに、察しが良い」 「何を探るのさ。言っておくが、向こうの使い魔は私の顔を知っているんだよ?」 「それともロマリアがいいかな?」 探る内容にもよるが、選ぶのならガリアだ。 ガリアであれば、トリステインやゲルマニアに入り込む手口が殆どそのまま通用する。 しかしロマリアは駄目だ。あの国は、特別すぎる。普通に入国するのは一番楽だが、間諜として入り込むには通常の手段では難しい。 「今更、何を調べる気だい。時間を稼げば勝てる。そう言ったのは誰だっけ?」 「勝ち負けだけを競うのなら、充分に勝てるとも」 あの日、監獄から連れ出された夜にフーケはワルドの計画を知らされた。 そしてその証拠も目にした。少なくとも、ワルドの計画に理屈は通っていたのだ。 だからこそ、フーケはワルドに従っている。 逃げ出すだけなら簡単だろう。ティファニアや子供達の新しい居場所ももしかしたら見つかるかも知れない。 しかしワルドの計画通りならば、この世界に安全な場所はアルビオンしかないのだ。 アルビオンを浮遊大陸としているのは、地中に存在する多量の風石の力によるものである。 では、同じ風石がそれぞれの大陸の各所、地下深くに眠っているとすれば。 ある時期に一斉に風石が活性化し、大陸を持ち上げる力となるとすれば。 そこに生まれるのは大パニックである。 突然、地面の各所が持ち上がるのだ。どれだけの町が、人が、建物が被害を受けるのか。 大陸一つを持ち上げる力に、どうやって対抗できるというのか。 生き残った者、わずかに残された土地でどうやって生きていくのか。 だからこそ、ワルドはアルビオンを奪ったのだ。 その大異変、「大隆起」をやり過ごし、残った世界に覇を唱えるために。 生き延びた貴族を根絶やしにするために。 兵力は無尽蔵にある。 地上で逃げ切れず倒れた者達の死体。アンドバリの指輪でそれらを操れば、労せずして一国の軍が生まれるのだ。 世界を滅ぼす大異変に続く、不死の軍隊による蹂躙。 誰が、その二つに同時に立ち向かうことが出来るのか。 立ち向かうことが出来るとすれば、それこそ伝説の虚無の使い手、そしてその使い魔だろう。 だからこそ、ワルドはルイズを手中に収めようとした。叶わなければ、その命を奪おうとした。 ザボーガーの存在が、ワルドにとっての計算外だったのだ。 それでも、ルイズはただ一人。ザボーガーもただ一台。 それだけの数で何が出来るというのか。 トリステインの虚無はルイズ。彼女は、ワルドの敵に回ったと考えて良いだろう。 ガリアの虚無はジョゼフ。この男は別だ。「大隆起」に気付いた気配はないが、何をするかわからない。下手をすると「気付いていて何もしない」という選択をとりかねない。 ロマリアとアルビオンの虚無は不明。 アルビオンに関しては当てがある。それこそが、ワルドがフーケに接近した理由の一つだ。 ティファニアが虚無に目覚めない限り、ワルドは何をする気もない。ハルケギニアでは一般的な、エルフに対する悪感情はワルドにはない。 虚無に目覚めていれば利用する。目覚めていなければ目覚めさせずにおく。それだけのことだ。 風のルビーと始祖のオルゴールはルイズの手元である。ティファニアがそれを見る機会などない。そして、ハーフエルフとして深窓に隠されていた娘だ。アルビオン王家の血をひくとはいえ、二つの秘宝に触れる機会はなかったはずだった。 少なくとも、フーケはそう断言し、ワルドも納得した。 ワルドは知らない。既にティファニアが虚無の魔法〈忘却〉を手にしていることを。 幼い頃に一度だけ、風のルビーと始祖のオルゴールに触れる機会があったことを。 ただし、フーケは言った。 「あの子も一応魔法が使える。ただし、それはコモンや属性魔法なんかじゃない。先住魔法さ。エルフだけが使えるね」 それは嘘。ティファニアが使うのは紛れもない虚無魔法だ。 そしてそれが、フーケがただ一つ残した切り札であった。 何故か。 タバサはグラントロワの裏へと歩きながら考えていた。 何故、賭け事という形を選んだのか。 ジョゼフは一言言えばいい。 「ザボーガーをルイズから奪い、余の前に持ってこい」 何故、賭け事という形にしたのか。 その必要が何処にあるというのだ。例えそれが嘘であったとしても、解毒薬の存在をここで示してどんな意味がある。 今更、解毒薬の存在に左右される自分ではない。イザベラならともかく、ジョゼフならばわかっているはずだ。 自分の意志など無視して命令すれば…… タバサは思わず立ち止まっていた。 答えが、見えたのだ。 これは、自分の意志。 これが賭け事ならば、ザボーガーを提供しないと言う選択が自分には残されている。 そう、これは賭け事なのだ。負けても構わない。奪われるものはない。 ただ、解毒薬は手に入らない。 タバサは小さく呻いた。 ここにキュルケがいればその耳を疑っていただろう。 それは限りなく呪詛に近い、歯ぎしりにも似た呻き。 タバサは悟った。 自分は今から、ザボーガーをルイズから奪おうとするだろう。 ガリア王に命令されたから? 否。 北花壇警護騎士としての役目? 否。 自分がそう望んだから。 賭の商品を手に入れるために、自分がルイズを裏切ることを選んだから。 これは、タバサの意志なのだ。 「お前は、自分の意志で自分の友を裏切るのだ」 ジョゼフの含み笑いが聞こえた様な気がした。 タバサの足音が荒くなる。 「おやおや、ご機嫌がお悪い様で」 タバサは立ち止まり、声の主に目をやった。 「お久しぶりですね、シャルロット様」 目の前に立つ騎士は、カステルモール。 だが、その声を発したのは違う。騎士の手には、これ見よがしに握られた一本のナイフ。 「地下水?」 「おおっ、やはりおわかりですか、さすがはシャルロット様」 「どっちの使い?」 「いえ。イザベラ様でもジョゼフ様でもありません」 「誰?」 「かつて、リーヴスラシルと呼ばれた御方」 タバサは小さく首を傾げた。 「あるいは、別の世界で魔神三ッ首と呼ばれた御方」 「何の用?」 「貴女とお話がしたいと」 「私に話すことはない」 「復讐を為すための力と機会」 再び歩き始めたタバサの足が止まる。 「三ッ首様が、その二つを貴女に提供したいと」 タバサの一瞬の逡巡に、地下水は言葉を重ねる。 「条件はただ一つ。貴女が三ッ首様に仕えることです」 そして地下水は言葉を繋いだ。 「王女シャルロット様」 「何故、私を」 「それは私にもわかりません」 事実、地下水には知らされていない。 ただ、三ッ首の呟きだけを、地下水は耳に留めていた。 ……新たなメザが、必要だな…… 大門は、二枚の手紙を前に首を捻る。 それは、パリで研修中の新田警部からの手紙だった。 父の旧友であり、ともにΣ団と戦った頼れる上司でもあり、大門とはまるで父と子の様な信頼関係を築き上げていた相手だ。 しかし、その新田警部からの手紙の内容は、あまりにも奇妙なものだった。 【君の父、大門博士からの伝言を伝えたい】 それ自体には何の問題もない。 父からの伝言を新田警部が預かっていた。そこに不自然さはない。強いて言えば、何故今まで隠していたか、ということだ。 そして、新田警部からの手紙に同封されていたのは父からの手紙だった。 【豊、この手紙をお前が読んでいるということは、三ッ首との戦いは終わったのだろう】 大門は思わず声を上げていた。 何故。 悪の宮博士に殺されたはずの父が、何故魔神三ッ首を知っているのか。 【そして、ザボーガーもマシンバッハも、お前のそばから消えていることだろう】 驚きはそれだけではなかった。 大門は、とにかく残りの手紙を読み切ることにした。 【山手台教会へ行け。そして最初にザボーガーと会った場所の、さらに地下を探すのだ。そこで全てがわかる】 ザボーガーが隠されていたのが山手台教会の地下だ。そしてそこは、ザボーガーの初代基地でもあった場所だ。 大門はすぐに教会へと向かった。 ザボーガーが最初に置かれていた秘密ガレージ。大門は、手紙に書かれているとおりに床をこじ開ける。 「……お?」 「そこに誰かいるのか?」 「ああ、もうそんな時間か」 こじ開けた穴から繋がる空間にライトが灯る。 大門は絶句した。 そこに立つのは紛れもない、ザボーガー。 そして、その手には見慣れぬ剣。 「よお、初めましてだな、ダイモンユタカ」 「ザボーガーが話している……わけじゃないな」 「ああ。俺っちは、デルフリンガー。あんたに、会いに来た」 前ページ次ページゼロと電流
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お探しの戦艦がある場合は(『Ctrl』+『F』)を押して、検索をかけてみてください。 戦艦 戦艦名 HP EN 耐久 移動 コスト 機体ランク 搭乗Lv 派生先 特殊 ミデア 3000 500 2 5 10000 S 90 ガルダ 補給システム搭載 コロンブス補給艦 2700 700 2 4 10000 S 90 なし 補給システム搭載 サラミス級 4300 380 2 5 10000 S 90 マゼラン級 補給システム搭載 マゼラン級 4800 400 2 5 10000 S 90 ペガサス級 補給システム搭載 ペガサス級 5300 450 2 5 10000 S 90 アルビオン 補給システム搭載 マッドアングラー 4700 400 2 5 10000 S 90 なし 補給システム搭載水中特化 ガウ攻撃空母 5600 330 2 7 10000 S 90 なし 補給システム搭載 ムサイ級 4500 380 2 6 10000 S 90 チベ級 補給システム搭載 チベ級 4700 400 2 6 10000 S 90 ザンジバル級 補給システム搭載 ザンジバル級 5000 430 2 5 10000 S 90 グワジン級 補給システム搭載 グワジン級 5800 550 2 6 10000 S 90 ドロス級 補給システム搭載 ドロス級 5800 550 2 5 10000 S 90 なし 補給システム搭載 アルビオン 5300 480 2 6 10000 S 90 アーガマ 補給システム搭載 アーガマ 5500 500 2 6 10000 S 90 ネェル・アーガマ 補給システム搭載 ガルダ 5200 500 2 6 10000 S 90 なし 補給システム搭載 ジュピトリス 4500 830 2 4 10000 S 90 なし 補給システム搭載 ネェル・アーガマ 5700 510 2 6 10000 S 90 ラーカイラム 補給システム搭載 ラー・カイラム 5800 530 2 6 10000 S 90 なし 補給システム搭載 フリーデン 5300 480 2 6 10000 S 90 なし 補給システム搭載 アークエンジェル 6100 400 2 5 10000 S 90 なし 補給システム搭載 クサナギ 5600 440 2 5 10000 S 90 エターナル 補給システム搭載 エターナル 5300 470 2 6 10000 S 90 なし 補給システム搭載 レセップス 5300 430 2 5 10000 S 90 なし 補給システム搭載 ヴェサリウス 5500 440 2 5 10000 S 90 なし 補給システム搭載 ガーディ・ルー 5900 440 2 5 10000 S 90 なし 補給システム搭載透過システム搭載 ミネルバ 6200 450 2 6 10000 S 90 なし 補給システム搭載 プトレマイオス 5500 500 2 6 10000 S 90 なし GNフィールド搭載補給システム搭載
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デッキ名 わだつみ主体ランカーデッキ ・メインPT わだつみ マカラ アクアライダー ・サブPT みずち ニクサー 解説 ランカー型の神族メタ強力デッキ。アルカディアなどの雑誌にも載ったデッキ。 攻撃属性は闇に偏っている。 さらにプレイヤー闇レイピアOK3神単ウマー。撃武器にすれば魔種とも戦いやすい。 みずち&ニクサーのおかげでライン上げたまま攻めることも可能。 このデッキへの対抗策 共通 シールドを封印して、アルカナ制圧に走る。あるいは、最初のぶつかり合いでわだつみを潰す。みずちがいれば、そちらを潰した方が、回復しながらうろつかれる心配はなくなる。 以下、種族ごとの対策 神族 オーディン・ゼウス・セルケト&ユニコーン・愛染明王といった面々がいれば戦いやすいが、相手は闇だらけ。アルカナ制圧が安全策か。 魔種 撃はそれほどいないため、うまく立ち回れば戦闘でも優位に立てる可能性がある。ただし、魔種の戦闘向き使い魔はスキル無しが多いため、移動速度でかき回されてゲートなどを封印されないように注意。また稼動時から使用率トップのサキュは戦闘でも重要な役割を持つため、落とされないように注意。エキサイトキッスの打ち所にも注意。距離が開いていると逃げられる。 超獣 相手に炎属性はない可能性が高いが、こちらも雷がない可能性が高い(クァールのみ)。そして何よりスキル持ちが全然いないといっていい数なので、ゲート・シールド封印に注意。 亜人 属性は超獣と同じ。超獣よりスキルはマシだが、主力となりゆる使い魔の移動速度が低めなので、移動速度でかきまわされないように注意。 海種 同族であるため、やはり属性で優位に立つのはきびしい。移動速度も互角。アルビオンがいればシールド封印からの逆転が考えられるが、アルビオンがいないとなると、わだつみやリヴァイアサンなどの高コストがいないと戦闘でもかなりの苦戦を強いられるが・・・ 機甲 海種と同じくやっぱり属性では優位に立てない。しかし、罠を当てることができればかなり消耗させることができる。デネブ・アルタイル・ポルックスといったアルカナ持ちを守りきり、アルカナストーンへ猛進すれば・・・勝てるハズ。 不死 わだつみがいる。ただ、それだけで怖い。しかし、シールド制圧からアルカナ制圧を行えば何とかなるハズ、またC使用率最下位(8月23日時点)のゾンビ·ブービーの愛され王スペクターがいれば戦いやすくはなる。使用率貢献にいかがでしょうか。あるいは、ネクロマンサー。 補足 コメント *編集が苦手な方はこちらへデッキ案、訂正指摘等々、お願いします テンプレじゃなくて「わだつみ主体ランカーデッキ」の方が聞こえがいいかと…… -- (名無しさん) 2008-09-19 01 11 44 ↑了解しました。 -- (名無しさん) 2008-09-19 20 17 31 名前 コメント すべてのコメントを見る
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前ページ次ページゼロと損種実験体 ルイズの就寝は遅い。夜遅くまで勉学に励む彼女は、ゆえに一度寝入るとまず目を覚ますことはない。 そんなわけで、朝になって、アプトムに起こされないかぎり目覚めるはずのない彼女は、しかし今回に限って自分の洩らした寝言で目を覚ます。 「いけない人ですわ。子爵さまは……。え? そんな、恥ずかしいですわ。って、あれ? なんでアプトムが出てくるの? って今度は誰? アンタ誰よ?」 何の夢を見てるんだか? とアプトムが見ていると、パチリと眼を開いたルイズと眼が合う。 「あれっ? あれっ? えーと、わたし何か寝言を言ってた?」 「いや、聞いてない」 さらっと嘘をつくアプトムに、ルイズはうーんと頭を捻る。寝言など人に聞かれないにこしたことはないが、さっきまで良い夢を見ていた気がする。それがどんなものだったのか、目覚めと共に忘れてしまったので思い出したいと質問をしてしまっていた。 が、睡眠時間の足りていない彼女は、すぐにまた眠りの世界に旅立つ事になるのだが、その前に、いつも黙って自分に従ってくれているアプトムの姿に、不意にある考えが頭をよぎった。 アプトムは、最初に召喚した時から、故郷に帰ることを望んでおり、ルイズに従っているのも、いつか彼女が彼を帰す魔法を作り出すという約束によるものである。 しかし、よくよく考えてみると、サモン・サーヴァントとは対象の前に召喚のゲートを開く魔法であり、そこを潜るかどうかは、相手の意思に委ねられている。 ならば、彼が召喚されたのは、彼自身の意志によるものではないだろうか? そんな疑問を思い浮かべた彼女は、特に深い考えもなく口に出し、「事故だ」という答えを聞いて納得し、次に起きた時にはそんな質問をしたことも、夢のことも完全に忘却してしまうのであった。 そして、ルイズが寝入ったのを確認して、アプトムは一人考える。 思い出すのは、彼が召喚されたときに融合捕食をしかけた斥候獣化兵。今思えば、ルイズが召喚しようとしていたのは、あの獣化兵であり、彼のゾアノイドはそれに応えてゲートを潜ろうとしていたのではなかったか。つまり自分は、そこに割り込んだ乱入者であり、そのクセ自分を帰せと無理難題を言っているのではないか。 だが、だからといって地球に帰る事をあきらめることは出来ない。彼には自分の生き方を変えることなど出来ないのだから。 まったく、何故今頃になってそんな事を聞いてくるのだとアプトムはルイズを睨みつける。 初めて会ったときに言われたのなら、知ったことかと無視もできたろうに、短くとも共にいた時間のせいで多少なりとも情の移ってしまった今では、気にせずにはいられないではないか。 そんな主従の、どうという事のない出来事があったある夜、一人の女性の元に不審者が現れていた。 女性の名はミス・ロングビル。学院長秘書の立場を持つ女性である。 夜遅くまで起きていた彼女が何をやっていたのかというと、手紙を書いていた。 ミス・ロングビルには、もう一つの名がある。土くれのフーケという盗賊としての名である。彼女がこの学院に勤めるようになったのは、学院の宝物庫にあるマジックアイテムを盗み出すためであり、盗賊としての仕事が終わればすぐにでも出て行くつもりであった。 そして、今回の仕事が終わったら、一度妹の元に帰るつもりであったのだが、その仕事が変な失敗をして帰る機会を逸してしまった。 仕事が失敗した今も彼女が、いつまでもこの学院に留まっていることに特別な理由はない。ただ単に、出て行くきっかけがないからであり、学院長秘書という身分に支給される給料が、仕事の失敗の埋め合わせに充分なものであるという理由からである。 そんなわけで、自分が盗賊などというヤクザな仕事をしていることを知らない、遠く離れた地に暮らす妹に、帰るのが遅くなるという言い訳を並べた手紙を書いていた時、その男はやってきた。 その男は風と共に現れた。 開いた窓から吹き込んだ微風にカーテンが揺れた時、白い仮面で顔を隠したその男は月明かりに照らされ立っていた。 「『土くれ』だな?」 問いではなく確認ですらない断定に、しかし彼女は何を言われたのは分からないと、とぼけて見せる。 学院長秘書のミス・ロングビルと盗賊の土くれのフーケを繋げる事実を知るものは、彼女の知る限り一人しかいない。そして、その一人は決してその事実を人に話さないだろう確信があったから。だが、男の次の言葉に彼女の演技は引き剥がされる。 「再びアルビオンに仕える気はないかね? マチルダ・オブ・サウスゴータ」 自身以外は妹ぐらいしか知らないはずの名を突きつけられ、彼女は蒼白になる。 「あんた、何者だい?」 「質問しているのは、こちらなんだがな」 くつくつと喉を鳴らして笑う男に、彼女は否と答える。アルビオン王家は彼女の仇である。父を、家を、全てを奪った敵だ。そんなものに仕える気などないと怒鳴りつける。 そんな彼女に男は笑いを収めることなく、勘違いするなと返す。 「王家に仕えろなどと誰が言った? アルビオン王家は、じきに倒れる。お前が仕えるのは、王家が倒れた後の我々有能な貴族が政を行うアルビオンだ」 有能な貴族ね。と彼女は呟く。そういえば聞いたことがある。今、アルビオンでは王家と貴族が争い、王家が劣勢にあると。 もっとも、それは彼女には関係のない話である。 かつて、アルビオン王家に仕えた貴族の家に生まれた彼女は、しかし今はもうその王家に恨みはあっても忠誠心などない。かといって、王家に復讐をしようという考えもない。かつては、そんな想いもあったが、自身と妹を食べさせていくのが精一杯の最初の生活と、その後の多くの孤児を抱えた現実の前に、磨耗した。 「へえ? で? 王家を倒して何をしようってんだい? アルビオンの新しい王様にでもなりたいのかい?」 バカにしたように笑う彼女に、男は冷淡に答える。 「我々はハルケギニアの将来を憂う高潔な貴族の連盟だ。ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ。アルビオンなど、手始めにすぎんよ」 高潔ときたか。と彼女は内心で笑う。 ご立派な理想を語る者は、自分自身それを信じてなどいないと彼女は知っている。信じるのは、駒として使い捨てられる者たちだけだ。 彼女は捨て駒になどなる気はない。大体、アルビオン一国を支配できたところで、ハルケギニアを統一するなど夢物語だし、仮にそれが出来たところで聖地にはエルフがいる。 この世界で最強の魔法使いたるエルフたちに勝てるものなど、この世界に一人も……、いや、二人くらいならいるような気がするが、それは置いといて、ハルケギニア中の貴族を集めても勝ち目などない。 ついでに言えば、彼女はとある事情からエルフという種族に特に悪感情を持っていないし始祖ブリミルに対する信仰も薄い。ので、聖地なんかエルフにくれてやれよという想いがある。 とはいえ。 「『土くれ』よ。お前には選択することができる」 「あんたらの手下になるか、ここで死ぬかを?」 皮肉で答えてみるが、男は悪びれもせずに「そうだ」と頷いてくる。 最初から男には、彼女に選択の余地を与えるつもりなどない。べらべら自分たちの目的を喋ったのも、そういう理由があるからだ。 戦って勝てるとは思わない。土メイジの自分は、正面からの戦いに向いていないと彼女は自覚している。 だから彼女は、「まあ、いいさ。アルビオン王家には恨みがあるし、エルフを倒して聖地を取り戻すってのも面白そうだ」と嘘をつく。 罪悪感はない。誇りなどない。生きるためならなんでもする。それが、彼女の生き方だから。 「それで、これから旗を振る組織の名前は、なんていうんだい?」 「レコン・キスタだ」 こうして、ミス・ロングビルという名の学院長秘書は、学院から姿を消すことになる。休暇届を提出してであるが。 それが、本当に単なる休暇で終わるのかどうか、それは彼女自身にも今は分からない。 その日、学院は喧騒に包まれていた。 いつも通りの朝を迎えて、いつも通りの授業が始まると思われた日常に、この国トリステインの王女アンリエッタが訪問するとの連絡が入ったからである。 当日になって急に連絡を入れてきたり、それを歓迎したりと、この国の貴族というやつは、刹那的な情動で生きているのか? などとアプトムは思ったが、口には出さない。これも、いつも通り彼には関係のないどうでもいい事だからである。 そんなわけで、魔法学院の正門をくぐる王女一行を整列して出迎えるルイズたち学院の生徒を、アプトムは塔の屋根に登り、そこから興味なさげに見ていた。 貴族ではなく、学院で働く使用人でもない使い魔という立場のアプトムには、王女が来たからと言って何かをしなければならない義務はなく、自分から何かをしてやろうという意志もない。ついでに王女というものに興味もない。 しかしまあ、部外者が多く学院にやってきているのにルイズから眼を離して何事か起これば困ったことになるなと、遠くから観察していたアプトムは多くの生徒たちが王女に注目している中、ルイズが別の人間に視線を向けたことに気づいた。 それは羽帽子をかぶり、鷲の頭と獅子の体を持つ幻獣に乗った口ひげも凛々しい男であった。 知り合いか? と思ってみるが、本人に問いただしでもしない限り分からないことであるし、ルイズの知人であったとしても自分とは関わりのないことだと、彼はその男の事を考えるのをやめる。翌日には、その男と顔を合わせることになるなどと、この時点では考えもしていない。 ついでに、ルイズの隣に立っているキュルケが、その男を切ない眼差しで見ていたりしたのだが、その事にはアプトムは気づかなかった。 キュルケはアプトムを嫌い敵視していたが、アプトムにとってキュルケはよくルイズと話をしている少女だという程度の認識しかなかったのである。 なんにしても、明日からはまた、代わり映えのない毎日が続くのだろうというアプトムの予想は、その日の夜に覆されることとなる。 いつもなら机に向かっているはず時間に、惚けた顔でベッドに腰かけたルイズに、さてどうしたものかとアプトムは考える。 ルイズに何があったのかなどアプトムには分からない。昼間見た男が関係しているのだろうという事は分かるが、それで何故ルイズがこういう状態になるのかなど彼の知るところではない。 分からないなら聞けばすむことだろうが、彼がルイズとの間に望んでいるのは契約という感情を差し挟まない関係である。相手の内面に踏み込むような行動は避けたいところだ。 それならば、相手の心情など気にせず、魔法を使えるように勉強をするか寝ろ。とでも言えばよさそうなものだが、昨夜の寝惚けたルイズの言葉に多少の罪悪感を覚えてしまった今のアプトムには、それも難しい。 本当に、どうしたものだろうかと悩んでいたところに、人の気配を感じたアプトムは扉の方を振り向き、そして扉をノックする音を聞いた。 珍しいな。そう思ったのは、彼が知る限り、この部屋に誰かが尋ねてきた前例がなかったから。この学院でもっとも多くルイズと言葉を交わすキュルケですら、この部屋に尋ねてきたことはない。 だから、彼が扉の外にいる者に対する警戒を解かなかったのは当然の事であろう。だが、その警戒がルイズに向けられているはずもなく、ノックを聞いたルイズが、はっと顔を上げ扉に走るなどとは想像もしていなかったアプトムが止める間もなく、彼女は無警戒に扉の向こうにいた黒い頭巾をすっぽりかぶって顔を隠した少女と対面していた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは夢見がちな少女である。そうでなければ、どれだけ努力してもかなわなかった魔法を使うという夢をいつまでも持ち続けることなど出来なかっただろう。 そんな彼女は、自分にとって都合の悪い想像というものをあまりやらないが、逆に都合のいい妄想ならばよくする。 昼間、王女一行の一員として学院にやってきた一人の男、いわゆるヒゲダンディーは彼女の知り合いである。しかも、ただの顔見知りなどではなく特別な関係と言っても良い相手である。彼と前に会ったのは、十年程前のことだが、それでも彼女の中の彼に対する想いは色あせずに残っている。 そして、それは彼も同じだろうか。同じであって欲しいと感じる彼女は妄想の翼を羽ばたかせる。 王女に随伴してきた彼に、ルイズは一目で気づいた。ならば、きっと彼も自分に気づいたはずだ。そうなれば彼は自分に会いに来てくれるだろう。そうでなくてはならない。何故なら、彼は自分の……。 そんな事を考えていた時に、来客があったのだから、彼女がヒゲダンディーが尋ねてきたのだと思い込むのは当然の事で、開いた扉の向こうにいたのが期待していた相手ではなかったと気づいてフリーズしてしまったのも致し方ない。 そんな彼女に構わず、黒頭巾の少女は部屋に入り、後ろ手に扉を閉めると、ルーンを唱え探知の魔法を使って、この部屋が監視されていないか確認し、そうして初めて頭巾を取った。 そこにあった顔は……、 「姫殿下!」 そうルイズが呼んだとおり、この国の王女アンリエッタであった。 アンリエッタ・ド・トリステインは、とても恵まれた人間である。 彼女は現在この国で唯一といっていい王位継承権の持ち主であり、優秀な水のメイジであり、美しい容姿であり、多くの人に好かれるまっすぐな気性の持ち主である。 そんな彼女であるから、多くの人間に好かれるし、甘やかされもする。 彼女には、望んだことが叶えられなかった経験が非常に少ない。 それは、王女と言う身分のせいでもあるし、基本的に我侭を言わない控えめな性格のせいでもある。 だが、そんな人生経験は当然のごとく彼女の人格形成に多大な影響を及ぼす。 よほどのことでない限り、自分の望んだことは必ず叶う。そんな歪んだ思考を持つようになってしまったのも、そのよほどの基準が多くの人間の考えるそれと大きく乖離してしまっているのも、彼女一人の責任とは言えまい。 そんな彼女が今回望んだのは、恋する男性に送った恋文の回収である。 アルビオンという国がある。その国では、現在貴族たちが王族に対し反乱を起こし内乱が起こっているのだが、その戦で王家が倒れる事は、もはや避けられない事態となっており、勝利した後の反乱軍は、次にトリステインを攻めるであろうというのが、この国の政治を取り仕切る者の考えであった。 アルビオンに比べて、トリステインの国力は低い。 単体でアルビオンに勝つことができるわけもなく、ゆえに他国と同盟を組む事に決めたトリステインはゲルマニアの皇帝の下に、王女を嫁がせることにした。 この国の唯一の王位継承者を他国に嫁がせることに反対するものがいなかったわけではないが、反対する者たちに代案があったわけではない。結局この決定は覆らなかった。 さて、この決定に対して、アンリエッタに不満がなかったわけではない。彼女には恋する男性がいて、その相手と結ばれる未来を夢見ていたりもした。 しかし、このおめでたい頭の持ち主である王女にも、それが自分には叶わぬことと理解できていた。 とても不本意ではあるが、ゲルマニアに嫁ぐ決心をした彼女は、その障害になるかもしれない、ある品物のことを思い出した。 それが、アルビオンの皇太子ウェールズに送った恋文である。 それのことを思い出したアンリエッタは、激しくうろたえた。 アルビオン王家が倒れ、ウェールズ王子が持っているはずの、その恋文が貴族派の者たちの手に渡ってしまえば、自分の決死の覚悟は無駄になり、この国の民の平和も脅かされる。 ここまでは、ごく普通の思考であるのだが、ここからがアンリエッタという少女の歪んだ思考である。 恋文を回収しなければならないと考えた彼女は、まずどうやってと言うもっともな疑問を頭に浮かべた。 この国の政治を取り仕切る人物であるマザリーニ枢機卿に相談するという案は真っ先に捨てた。 あるいは、誰よりもこの国のことを考えているのだろうが、『鳥の骨』などとも言われる男を彼女は嫌っている。 そもそも、アンリエッタのゲルマニアへの輿入れの話を持ち出したのも彼なのである。それが、最善の選択だと理解しても彼女が好意を持てなくなるには充分である。 では、他の誰にと王宮の貴族たちの顔を思い浮かべて、それを切り捨てた。嫁ぎ先が決まった娘が、他の男に送った恋文を回収しようとしているなどという醜聞を迂闊にもらすわけにはいかない。大体、王宮の貴族たちは、最終的に自分のゲルマニアへの輿入れに同意した者たちである。そんな連中に自分のプライバシーを明かす気にはならない。 では、誰に頼むかと考えて、彼女は自分の親友とも言える幼馴染のことを思い出した。 貴族の誇りを重視しながらも、自分の心を大事に思いやってくれて、王女にあるまじきいろんな我侭も二つ返事で聞いてくれる大切な『おともだち』ルイズ・フランソワーズのことを。 他人が聞けば、それは本当に友達なのかと疑問を感じてしまう認識だが、あいにくと彼女には、他に本音を語れる親しい相手というものが当のルイズ以外にいないので、この認識に疑問を感じたことがない。 かくして、アンリエッタはルイズに会い、その事を話し頼み込み、快く快諾し更には望まぬ婚姻をしなくてはならない彼女を慰めてくれさえした友人に、ああ、これで全ては上手くいくと安心した。さすがに、その回収すべき手紙が恋文であるとは言わなかったが。 それが、戦地にろくな魔法も使えない世間知らずの小娘を送り出すという、危険どころではない所業であるという自覚はない。 ルイズが、失敗するかもしれない。それどころか死ぬかもしれないという可能性には思い当たらない。彼女の望むことは、よほども事でない限り叶うのだから。 これは、アンリエッタの頼みごとに、いつも疑問を差し挟まず素直に聞くルイズにも問題があるのだが、ルイズにも言い分がある。 姫さまのやることが間違いだったことがない。それが、彼女の認識なのだから。 実際、ウェールズに送った恋文を回収しようという考えに間違いはない。頼む相手を間違えているだけで。 なんにせよ、王女の頼みを受けたルイズは、かたわらにいるアプトムに顔を向けた。その顔には「もちろん手伝ってくれるわよね」と書 いてあり、彼は任せろと言わんばかりにルイズの頭に手を置き。 「わかった。その手紙は返してもらってくるから、大人しく待っていろ」 と言った。 アプトムが快く承知してくれたことに気をよくしたルイズはニッコリ笑い。そして、アレ? と疑問を覚えた。 今この男は、なんと言っただろうか? 大人しく待ってろ? 待ってろ? 「今、待ってろって言った?」 「言ったぞ」 うん。やっぱり聞き間違いじゃなかった。つまり、アプトムは一人で行くから自分にはついてくるなって言ってるわけだ。 「って、なんでよ!?」 叫んでみるが、アプトムは動じない。 「何がだ?」 「頼まれたのは、わたしなのよ。わたしが行かなくて、どうするのよ!」 「どうもしなくていい。使い魔の仕事は、メイジができないことを代わりにやることだろう?」 「わたしは貴族なのよ!」 貴族が、自分に与えられた任務を人に押し付けられるわけがないと言うルイズに、アプトムは、それがどうしたと答える。お前に、この依頼が果たせると思っているのかと。自分が何者かを見つめなおしてみろと。 そして、ルイズは黙り込む。彼女は貴族である。貴族の誇りにかけて、姫さまの頼みに答えなければならない。そして、彼女はゼロのルイズである。魔法の成功の確率ゼロのルイズ。 そんなお前に、姫さまの与える任務をこなせるのか。アプトムはそう言っているのかとルイズは、歯噛みする。だが、それは思い違い。 「おまえは、貴族である前に学生だろう。貴族がどうのこうのに、縛られるのは学院を卒業してからでも遅くない。大体、王党派と貴族派が争っている中、皇太子に会いに行くという任務は、世間知らずの学生に果たせるほど簡単なものなのか?」 ルイズが魔法を使えるかどうかなど関係がない。魔法が使えようが貴族だろうが、学生という未熟な存在であるルイズは、この任務を受けるべきではないのだとアプトムは言っているのだ。尚、彼がまだクロノスに対し忠実であった頃に、盟友のソムルムとダイムを斃したガイバーI・深町晶もまた当時はルイズと同様に一介の学生であり、自我に目覚めクロノスを離反した後、前述の盟友達の死から深町を己が手で打倒すべき敵と認識しつつも、彼もまたクロノスの所為で生きる為に闘わざるを得なかった事自体はきちんと認識しており、その事と今回のルイズの立場と被ったが故の考えと、取れなくもないといえよう。 それは正論であり、召喚されて以来、ルイズに忠実であったアプトムの言葉であるから、彼女は頭ごなしに否定ができない。しかし発言の真意が理解できたルイズは感情を整理し冷静になれたのも事実である。 「でも、アプトム一人じゃ、王党派の人たちに信用してもらえないかもしれないし……」 それでは手紙を返してもらえないかもという苦し紛れの言葉は、ルイズがいても信用される保証はないし、平民のほうが貴族派に怪しまれる心配がなくていいだろうというアプトムの返答に切り払われる。 それでも納得することなどできないルイズは、「あの、ルイズ。その方は?」というアンリエッタの言葉に、そういえばと、説明してなかった事を思い出す。ずっと、この部屋にいるアプトムのことを今頃になって尋ねてくるアンリエッタもどうかしているが。 「こいつは、アプトム。わたしの使い魔です」 「使い魔?」 確かに本人もそんなことを言っていたけど、とアンリエッタは首を傾げる。 「人にしか見えませんが……」 「人です。姫さま」 人間じゃなくて亜人ですが。とは言わない。敬愛する姫さまといえど教えるわけにはいかない事もある。 「そうよね。ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」 「…ほっといてください」 ルイズにとってアプトムは自慢の使い魔であるが、表向きただの平民であると通している以上、周りの眼が冷たくなるのは仕方がないと、最近になって彼女は理解していた。 それはともかく、ふとルイズは浮かんだ疑問を口にする。 「じゃあ、アプトム一人で行くって言うの?」 「そのほうが身動きがとりやすいからな」 「でも、アプトムってトリステインの生まれじゃないわよね。というか魔法に頼らないと帰れないくらい遠くの生まれでしょ。案内なしで道が分かるの?」 そう、アプトムはハルケギニアの人間ではない。地球という他の天体から召喚されてきた者だ。そんな彼にアルビオンへに道が分かるわけがなく、交通手段についての知識もない。 だが、その辺りについても考えがある。 アンリエッタは、この部屋に一人で入ってきたが、この女子寮まで一人できたとはアプトムは思っていない。彼の見たところ、この王女はルイズにも負けない浅はかな思考の持ち主だが、それでも一人で出歩くほど能天気ではないだろうし、本人がそのつもりだったとしても周りの者は、この国の王位継承者が護衛もつけないで出歩くのを許したりはしないだろう。 現に、この部屋の外。扉の向こうからは、この部屋の様子を伺っている何者かの気配があり、それが王女の護衛なのだろうとアプトムは予想する。 その護衛が、アンリエッタが連れてきた者なのか、勝手に着いてきた者なのかは、流石のアプトムでも知るところではない。 しかしどちらにしろ、自分がアルビオンに向かう道案内にはちょうどよかろう。 だからと、「こいつを連れて行く」と扉を開けて中に招きいれようとして、アプトムは、そこで扉に耳を当てて盗み聞きしていたらしい金髪巻き毛の少年と顔を合わせた。 それは、王女の護衛などではなく、ルイズと同じく、この任務に連れて行くには不適切なただの学生であったのだけど、今更勘違いでしたと言うわけにもいかない状況である。 この計算外の事態にも、表面上は平静を装ったアプトムではあったが、内心ではそうではなかったため、同じ学生の身分であるギーシュは良くて自分は駄目だというのには納得できないと言うルイズに反論しきることができず、結局ルイズはアプトムと何故かギーシュの三人でアルビオンに向かう事となり、ルイズはアンリエッタからウェールズへ充てた手紙を受け取り、ついでに路銀の足しにと王女が母親から頂いたという指輪も預かった。 ギーシュ・ド・グラモンは、軟派な外見や性格とは裏腹に、貴族としての誇りを強く持つ少年である。 彼の尊敬する父は、元帥の地位を持つ勇敢かつ優秀な軍人であり、彼も将来はかくありたいと思っている。 その父親が好色な性質であったことが、彼の女性に対するだらしなさの原因の一つであるが、それは置こう。 彼には、許せない相手がいる。ゼロのルイズと呼ばれている少女が召喚したアプトムという名の男である。 あの男のせいで二股をかけていた少女二人に振られたから。その後に起こった決闘で勝負にもならずに負けたから。というわけではない。 それがないとは言わないが、彼にはそれ以上に許せないことがあった。 それが、あの男の自分を見る眼。 彼は、貴族である。貴族は平民になど負けてはいけない立場にいる。その自分に、あの男は勝利した。それだけなら良かった。それだけならお互いの健闘を称えあうこともできただろう。 だが、あの男は自分を見ていない-もっとも、逆に言えば敵と見做されていないだけでも、ギーシュにとっては僥倖の極みなわけなのだが-と気づいてしまった。あの男にとって自分は、炉辺の石ころにも等しい。彼我の実力差を考えれば、あの男がそういう眼で見てくるのは当然なのかもしれないのだけど、それを彼は許せない。 そんな眼で見てくる相手が明らかに自分より優秀だと分かるメイジで、例えば女王を守る魔法衛士隊隊長なんかなら、彼もそんな風には思わずに負けを認めていたのだろうが、ギーシュのアプトムという男への認識は魔法の一つも使えないただの平民である。そんな相手に見下すどころではない眼で見られることを許容出来るほど彼の矜持は安くなく、ゆえに必ずや、あの男の心に自分の名を刻んでやると心に誓っていた。 そんな彼であるから、何度もアプトムに対して、決闘を申し込んでいた。 錬金で作り出したゴーレム『ワルキューレ』に、武器を持たせて挑ませたこともある。落とし穴を掘ってワルキューレに誘導させて動きを封じる策を練ったこともある。パワーで勝てないのならと軽量化を図ったワルキューレで100メイル走をしかけて勝負したこともあるし、走り幅跳びだってやった。パワーもスピードも敵わないのなら頭脳だと、ワルキューレにチェスの勝負を仕掛けさせたこともある。 しかし、一度たりとも勝利をつかむ事はできなかった。自分を敵だと認めさせることすらできなかった。 代わりと言っては何だが、クラスメイトの眼が生ぬるい物になってきたが、ギーシュは気にしない。深く考えたら、泣いちゃいそうだし。 そんな現在の彼にとって、何よりも優先されるのはアプトムに自分を認めさせることであり、ゆえに長らく可愛い女の子を見ても興味を抱く事すらない毎日を送っていた。 そんな彼だが、アンリエッタという、この国の王女に対してまで、無関心でいることはできなかった。 平民が貴族に対して従属する義務があるのならば、貴族には王家に従属する義務があり、それは名誉ですらあると彼は認識している。そんな彼にとって王女とは憧れの対象であり、その相手が若くて美しい女性となれば、お近づきになりたいと考えるのは当然のことであろう。 とはいえ、だから何をしようと考えたわけではない。父親ならともかく、彼自身はただの学生の身分である。そんな彼に、王女と直接顔を合わせるという栄誉が得られるはずもない。 だが、いずれは自分もあの美しい王女に謁見が許されるような立場になってやるとギーシュは夢を描く。 それが、多くの若い貴族が胸に描き、しかし成し遂げられずにあきらめていくであろう妄想の一つであろうことだなどと、彼は思わない。 彼は若く、夢は若者の特権なのだから。 それはさておき、ギーシュは学院の中庭で月を見ていた。 大地を優しく照らし出す二つ月の一つに、若く美しい王女の面影を見出すことなど、彼には容易い。 今夜の、寝る前の自分大活躍妄想劇場に王女に登場してもらうため、彼は王女の姿を心に刻み込む。ちなみに、もう一つの月には、最近疎遠なモンモラシーの姿を見出していたりもする。 そんなとき、彼は視界の隅を横切った人影に気づいた。 その人影は、真っ黒な頭巾をかぶり、正体が知れなかったのだけれど、ギーシュは一瞥でそれを王女と見抜いた。 単に、何とか王女とお近づきになれないかなと思っていたときに、たまたま通りかかった女性がいたので、特別な理由もなく関連付けてしまったというのが、正しいのだが、事実として、その人影は王女アンリエッタその人であった。 王女を見たギーシュは、特に深い考えもなく、後をつけていく事にした。後をつけて何をしようと考えていたわけではないし、王女がお供もつけずに一人で歩いていることにも、特に不信感を抱くこともなかった。彼に限ったことではなく、トリステイン貴族は、深く考えるよりも、その時のノリで動くことが多いゆえの行動である。 そんなわけで、王女を追って女子寮に入っていったギーシュは、ある一室に入っていったのを見送り、即座に扉に耳を当て聞き耳を立てた。 そうして、図らずも王女に直接頼みごとをされる機会を得た彼は、貴族としての矜持と、美しく王女への思慕とアプトムへの対抗心ゆえに、この国の存亡にも関わりかねない任務に参加することになるのである。 前ページ次ページゼロと損種実験体